史上最強かつ最凶と言われた天才ボクサー、マイク・タイソン。その激動の人生を綴った『真相──マイク・タイソン自伝』のハイライトシーンを紹介する連載の第6回。
レイプ事件で有罪となり、ボクサーとして絶頂期の20代後半を刑務所で過ごすことになったタイソン。しかし3年の服役を終えると、あっという間に世界チャンピオンに返り咲く。そして世界中が待ち望んだ宿命のライバルとの連戦に挑むことになる。

1995年、刑務所から釈放されたタイソンは、わずか1年後にフランク・ブルーノを倒しWBC世界ヘビー級チャンピオンに返り咲く。その後WBAのベルトも奪還し、宿敵イヴェンダー・ホリフィールドとの一戦を迎えた。だがこの戦いでタイソンはホリフィールドからたび重なるバッティングを受けついにKO負け。試合内容に不満だったタイソンはすぐに再戦を要求。そして1997年6月28日に行われたリターンマッチで、ボクシング史上最悪の事件が起こる。

なぜ耳を
噛みちぎったのか

 試合が始まり、気分は上々だった。自信があったし、コンディションも良好、動きは水のようになめらかだった。とらえどころなく動きまわり、大きいのを狙わず、無理のない戦いに徹した。そのとき、またホリフィールドが頭突きを食らわせてきた。俺が打ってくるのに合わせて頭から飛び込むのがホリフィールドの戦術なのは、誰の目にも明らかだった。つまり、頭突きは偶然の出来事ではなく戦略だったんだ。

マイク・タイソン(Mike Tyson)
1966年生まれ。アメリカ合衆国の元プロボクサー。1986年にWBCヘビー級王座を獲得、史上最年少のヘビー級チャンピオンとなる。その後WBA、IBFのタイトルを得てヘビー級3団体統一チャンピオンとして君臨。しかし2003年に暴行罪によって有罪判決を受けるなど数々のトラブルを巻き起こし、ボクシング界から引退。アルコール・麻薬・セックス中毒のどん底状態から過去の自分を反省し、自己の人生を語るワンマンショーで成功を収め、新たな幸せと尊敬を得る。2011年、国際ボクシング殿堂入りを果たす。2013年に『真相:マイク・タイソン自伝』を上梓。(Photo:© Bettmann/Corbis)

 第2ラウンドに入るとさらにひどくなった。こっちがパンチを出し始めると、また頭から飛び込んできて、ガツン! 俺は目の上を大きく切った。すぐミルズ・レーンに顔を向けた。

「頭突きだ!」

 レーンは何も言わず、偶然のバッティングと判断した。

 ホリフィールドがここで目の上の傷をじっとにらみ据えた。頭を下げて突進してくる気だ。俺より背が高いのに、俺より頭を低くしてどうするんだ? いらいらが募ってきた。

 第3ラウンドが始まったときは、はらわたが煮えくり返っていた。早く戦いたくてマウスピースを着けずにコーナーを出てしまい、リッチーが呼び戻して口に入れてくれた。

 ラウンドの開始早々、強いパンチを2発当てた。観衆が熱狂し始めた。試合の流れが変わったのを感じ取ったんだ。そこでやつはまた頭突きを食らわしてきた。力が抜けて意識が飛びそうになったが、怒りとアドレナリンにぱっと引き戻された。殺してやる。バッティングがあからさますぎるのは誰にでもわかっただろう。俺は激怒していた。無規律な戦士と化し、冷静さを失った。そして、あいつの耳に噛みついた。