9月初頭の晩、日本航空(JAL)の経営陣は世界最大手の航空会社である米デルタ航空との電話会議に臨んだ。デルタ上層部の手元にあるのは数日前にJALから送られてきた財務資料。この日、JALがデルタに出資を仰ぐ資本提携の交渉が幕を開けた。翌週、竹中哲也副社長はデルタ上層部と面会するために米国に飛んだ。
外資大手との出資交渉に乗り出し、自前運航路線の大幅縮小も宣言し、JALの再建が一気に加速するのかといえば、カギを握るメガバンクら銀行団の姿勢はむしろより慎重になっている。「本格的支援を決断するのは年末ではなく、今年度末になるだろう」とある銀行幹部は決着の先送りを口にする。
JALの資金ショートを回避するために6月下旬、政府支援による大型融資が決まった。政府系金融機関である日本政策投資銀行のJAL向け融資約600億円に80%の政府保証が付けられ、これを受け、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、国際協力銀行は、政投銀とともに計1000億円の協調融資を行なった。
このとき民間銀行が実施したのは、返済期限が訪れた借金の借り換えに応じた短期のつなぎ融資にすぎない。JALが九月中に策定する経営改善計画の内容次第で、総額2000億円規模の長期融資、および資本増強という本格支援を実施するか否かを銀行団が判断することになっている。
JALは5月に企業年金支給額を大幅に削減するための企業年金制度改定計画を打ち出し、8月には日本郵船と航空貨物事業統合の協議開始を発表した。続いて、一部の観光路線を本体から切り離して観光路線会社に新たなスポンサーを迎え入れる案も浮上。そして九月、デルタとの資本提携交渉が始まった。
華々しく再建材料が披露されてはいるが、「すべてはまだ生煮え」と銀行幹部。正式な決定にこぎ着けたものはなく、「見栄えのよいメニューを出しているにすぎない」とJAL側の関係者も認める。どれも交渉相手がある案件だけに実現性は不透明だ。
デルタとの資本提携は、デルタによるデューデリジェンスがこれから始まるという段階。米アメリカン航空がデルタへの対抗で資本提携に名乗りを上げて交渉が長期化すれば、その行方を見守る必要性から、他の案件の交渉も連鎖的に長引く可能性がある。
したがって、年末には資金ショートを回避する最小限の融資に応じ、本格的な再建に必要な大型融資および資本増強策への決断は、来年3月の年度末ギリギリまで引っ張らざるをえないというのが、現時点での銀行団の見解だ。
なにより、新政権がJALへの政府支援にどのような態度で臨むのかが見えていない。民主党政権の出方によっては一気に片がつく可能性もあるが、JAL再建に携わる関係者たちは疲労を滲ませながら、延長戦突入への覚悟を固めている。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)