ちょっとした言い方の違いで伝わり方も変わる

柳川 松嶋さんのお店は、もちろん料理もおいしいですが、プレゼン戦略がすごいと思います。

松嶋 NOと言われたくないんですよね。「おいしくないよ」と言われたら負けです。

柳川 いろいろな知識を事前に持っているからこそでもありますが、やはり相手がどういう風に感じたら自分の料理に共感してくれるかを考えているからでもありますよね。

松嶋 料理は結局、食材の持っている力を上手に引き出して、お客さんをやっつけるようなものです。兵法で一番大事なことは、戦わずして勝つことですよね。五目並べをしながら、祖父にそれを教えてもらいました。

海外で成功したければ“下ネタ”を覚えなさい <br />日本人を捨てず現地に溶け込む秘訣柳川「料理を黙ってだせばいいんだと言う料理人が多いと思っていました(笑)」

柳川 偏見かもしれませんが、料理を黙ってだせばいいんだと言う料理人が比較的多いと思っていたので、その発想の転換は新鮮だと思います。それは企業がモノを売ったり、サービスを提供したりするときも同じです。中身がいいことは大事ですが、それをどうやって相手に伝えるか、どう相手にシンパシーを持ってもらうかがとても大事だと思います。

松嶋 自分たちの企業理念を、時間とともに忘れていってしまうんですよね。経済活動が活発になると、どう利益を出すかに特化すると思います。たとえば利益を出すために東南アジアに工場をつくるにしても、地元がもっと活性化してほしいという理念を持ち続けていれば、その企業はずっと繁栄し続けると思います。そういう意識が欠けているのではないかと思いますね。

柳川 そうですね。もう1つは、いいものを作りさえすれば、あとは黙っていても売れる、というタイプの人が製造業に多い気がしています。それも大事なことですが、それだけではきっとダメでしょう。ビジネスは広い意味でのコミュニケーションですから、相手にいかにうまく伝えるか、相手の気持ちにどうやって寄り添うのか、そういうスタンスがもっと日本企業にあってもいい気がします。

 ユーザーの視点に立って、どこまで考えられるか。それは旅に出て視点を変えることが大事だというスタンスにも通じる話です。自分のスタンスだけでものを見続けると、受け手側はどういう印象を受けるかに思い至らない。視点を変える訓練を絶えずして、ユーザーの立場になったらどう思うかと考え続ける癖をつけることも大切かなと思います。

松嶋 ニースのお店のスペシャリテの1品として、魚をタルタルにして、その上に煮こごりのゼリーとキャビアを載せて、わさびをちらす料理があります。フランス人には「ブイヤベース・ジャポネーゼ」だと紹介して、「サフランとニンニクとトマトが、しょうゆとショウガに変わっただけで、全く一緒だよ」と伝えると、面白いと食べてくれるんですよ。一つ言い方を変えるだけでも伝わり方が全く違います。相手の文化を理解していなければ、それはできませんが。

 高校のサッカー部の先輩が、ニューヨークで豚足屋をやっていて、ものすごく流行っているのですが、もともと豚足は、アメリカでは産業廃棄物だったんですよ。「ニューヨーカーは豚足を食べるんですか?」と聞いたら、「パリジャンはピエドコションという名で、豚足食べるだろ?コラーゲンがいっぱいで肌にいいと言って。アメリカでレッグピックと言っても売れないけど、『フランス人が好きなピエドコションだ』と言うと売れるんだよね」と言っていました。

 相手が何に関心があるかがわからなければ、その言い回しはできません。アメリカ人は、フランスに対して憧れを持っています。それをちゃんと理解したうえで提案して売っているので、すごいなと思います。明太子も売っているんですけど、「スパイシーキャビア」といって出しているそうです(笑)。