なぜかこの冬、NHKドラマの舞台が四国に集中している。朝の連続ドラマ「ウェルかめ」が徳島県、スペシャルドラマ「坂の上の雲」が愛媛県松山市、そして来年の大河ドラマ「龍馬伝」が高知県。高速道路でそれぞれ2時間という近さである。
たかがドラマというなかれ。NHKドラマの経済波及効果は小さくない。2008年の大河ドラマ「篤姫」の舞台となった鹿児島市には放映期間中に設置されたイベント会場に67万人もの来場者があり、経済波及効果は262億円に上るとされる。
先日放映が終了した大河ドラマ「天地人」に関しては、新潟県南魚沼市、上越市、山形県米沢市がそれぞれに「天地人博」と題するイベントを開催。3ヶ所とも目標20万人の倍以上の動員を記録した。
周辺の観光施設には前年同期比3倍の来場者があり、週末には県外ナンバー車の渋滞が起きたほどで、新潟県で204億円、米沢市では116億円の経済波及効果があったと見積もられている。観光地としての知名度・イメージ向上に対するNHKの貢献ははかりしれない。
「"坂の上の雲"は放映が延びたという経緯もあり、それぞれのドラマとも選考過程も時期もまったく異なる。四国に集中したのは単なる偶然」(NHK)というが、これだけ距離が近くて、しかも司馬遼太郎の代表作、人気の坂本龍馬となると、四国観光が千載一遇のブームを迎えることは確実であろう。
事実、ご当地の日本銀行支店・事務所の試算によれば、「龍馬伝」が234億円、「坂の上の雲」が150億円超、「ウェルかめ」が31億円で、経済波及効果の総計はざっと415億円。四国エリア全体で考えても、史上最高の観光需要が期待できる。
1999年に就任した中村時広・松山市長は2年がかりで「坂の上の雲の街づくり」を方針として掲げ、司馬遼太郎夫人と交渉し「坂の上の雲ミュージアム」開設の許可を得たほどのファンとして知られるが、スペシャルドラマ放送前にもかかわらず、同施設には前年同期比1.5倍の入場者があった(9~10月)。松山市の担当者は「番組宣伝を見たファンが早くも動いたようだ」と手応えを感じている。
NHKは「ドラマチック!四国」のキャッチフレーズを掲げ、ドラマと四国の売り込みに躍起。大河ドラマ、スペシャルドラマの放映決定を受けて、JR四国も高知県、松山市と相次いでパートナーシップ協定を締結し、番組PRのラッピング列車、パッケージ商品等による関西からの観光客誘致を企画中だ。ドラマの視聴率にも左右されることになろうが、四国は今、NHK特需で沸き立つ寸前である。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 千野信浩)