イヤな仕事で本当は逃げ出したかった

 事件や事故の取材でも、芸能リポートでも、ベースとしてあるのは人が人を伝えること=喜怒哀楽を伝えることです。

 ”喜”や”楽”を聞きに行くときは、相手もしゃべりたいでしょうからとてもラク。ほうっておいても嬉々として話してくれます。

 ”怒”にしても不平や不満をたっぷり抱えているので、相手だって吐き出したくてたまらないはず。こちらは聞き役に徹しているだけでいいんです。

 一番苦労したのは”哀”を聞き出すことでした。

 皆さんだって大きなショックを受けたとき、触れてほしくない部分がありますよね。僕は、この「イヤ」に迫ることがとにかくイヤでしようがありませんでした。

 かつて、深夜1時とか2時に突然自宅を訪ね、インターホンを鳴らすという今では考えられないような取材をしていた時代がありました。普通に考えても非常識な話ですし、これを今やってしまったら最悪の場合、警察に通報されても文句は言えません(笑)。

 そんなアポなし突撃取材は、芸能リポーターになってもっともやりたくない取材の一つでした。

 できることなら、「インターホンを鳴らしたんですけど、どなたもいらっしゃいませんでした」と報告したかった。でも、手ぶらで帰るのも悔しい。そんな微妙な心情の間でいつも心が揺れていました。

 慣れない取材の影響で僕は対人恐怖症のようになってしまい、取材後に「今日は遠慮しすぎた」と消化不良でストレスを溜めてしまうこともあれば、逆に踏み込みすぎて、自己嫌悪に陥ってしまうこともありました。