稀勢の里も鶴竜も仕切りの間、逸ノ城を目の前にし、底知れない圧迫を感じたのではないか。だから当たり負けしないよう突っ込んでいった。大関と横綱があっさり負けた裏には逸ノ城の強力なパワーがあったからだ。加えて逸ノ城には勝負に対するしたたかさもある。計算していたのかどうかは判らないが、この2番とも逸ノ城は立ち会いで早めに立ち、相手に体をぶつけている。結局、待ったになったが、これも相手に圧迫感を与えるには効果がある。

巨体とパワーのみならず
技や巧さも併せ持つ逸材

 こうした相手を圧倒する巨体とパワーだけでなく、逸ノ城には技や巧さもあるから手がつけられない。たとえば二人目の大関・豪栄道戦。豪栄道は立ち会いで左上手を取り、半身の体勢で頭をつけた。十分勝負になる形だ。そこで逸ノ城は左を差してもろ差しを狙う。豪栄道は、そこで右を巻き替えにいった。相手が巻き替えに出た瞬間を攻めるのは相撲の鉄則だ。逸ノ城はその一瞬を見逃さず一気に寄り、上手投げを決めた。

 疑問なのは、指折りの技巧派である豪栄道が十分な形になっていながら、なぜ巻き替えに行ったかだ。これは想像だが、豪栄道は組んだ瞬間、逸ノ城の強烈な圧力を感じ、こんな相手にもろ差しを許したら、たまらないと思ったのではないか。体で圧力を与えたうえで左を差して巻き替えを誘いその瞬間を逃さない、という力と技、反射神経やスピードで勝利したことになる。

 9月場所で逸ノ城と対戦した力士は、勝った白鵬以外みんなオタオタしているように見えた。メディアは「怪物」だけでなく、「モンスター」、「化け物」とも表現していたが、それを何より感じていたのは幕内力士ではないだろうか。取組を見ていて感じたのは、幕内力士の大変さだ。幕内上位で相撲をとる以上、こんなモンスターと生身で勝負をしなければならないからだ。逸ノ城はそんなことさえ思わせる本物の怪物なのだ。