アートディレクターとは、監督が思い描くストーリーを踏まえて、ワンシーンずつビジュアルイメージを作りあげ、それに基づいて約200人のCG製作スタッフをディレクションしていく仕事である。

 ピクサーでは、「キャラクター担当」「背景担当」など複数のアートディレクターがいて、全員が監督をサポートする体制をとっている。堤さんが担当するのは、「光と色彩のアートディレクター」。作品全体の色彩と照明効果を統括する仕事である。

 具体的にご説明しよう。
 このラフスケッチをみていただきたい。

堤さんが描いた『トイ・ストーリー3』のラフスケッチ

 これは、「トイ・ストーリー3」のワンシーンを、堤さんがディレクション用にスケッチしたもの。左端の主人公・ウッディが、仲間に別れを告げるシーンである。注目してほしいのは「光と影」。全員の顔が翳っているのがおわかりだろう。しかも、ウッディは、この後、明るい場所に立っている仲間に背を向けて、向かって左手の方向にあるドアから立ち去っていく。つまり、「明るい場所」から「暗い場所」へ向かっていくという「光の演出」によって、ウッディの不穏な未来を暗示しているのだ。

 このようにワンシーンごとに「光と色彩」を緻密につくり上げ、CG製作スタッフととともに映像化していくのが、「光と色彩のアートディレクター」の仕事だ。多くの人は、映画を観るときに「光と色彩」をあまり意識しないが、「光と色彩」が変わるだけで作品世界はがらりと変わってしまうという。それほど、影響の大きな仕事なのだ。

 この仕事を進めるうえで、堤さんの武器となっているのは「画力」である。ビジュアルイメージを具体化し、CG製作スタッフにディレクションするのだから当然のことだ。

 きっと、幼い頃から絵が得意だったのだろう……。
 誰もが、そう思うはずだ。
 しかし、堤さんは「全然、違うんです」と苦笑する。

「小さいころから、落書きしたり、友達の似顔絵を描くのは好きだったんですが、18歳になるまで真面目に絵を描いたことはありませんでした」

 そんな堤さんは、どうやってピクサーでの仕事を手に入れたのだろうか?