孫子からクリステンセンまで、3000年に及ぶ古今東西の戦略書から、今日本人が最も読んでおきたい古典的名著をベスト10で紹介する。この時代に最も有効で、使える戦略書はこの10冊だ! 前編に続き、後編は第5~10位の書籍のエッセンスを解説。
※前編の記事はこちら
劣化した目標と共に没落する企業にならないために
前回は「目標自体を正しい形に変える戦略」のトップ4までをご紹介しました。この4冊は、もっともシンプルに解説するなら「自社」と「人材」、「顧客」と「市場」の関係を、これまでの古い思い込みから脱却させることを狙っています。
ゲイリー・ハメルの『経営の未来』はマネジメントのイノベーションについて新たな提言をしていますが、極論を言えば「期待していないことを人から引き出すことはできない」ということです。企業側が古い経営管理の概念にとらわれて、社内の人材から切り捨てている要素によって、自ら敗北に追い込まれる皮肉な姿を浮き彫りにしています。
一方を立てるともう一方が成り立たない、というトレードオフの関係を、疑わずに盲信して失敗している例は非常に多いと言えます。自主性と管理、自由と規律なども同じです。
企業や大学の研究室で、個人が発明をした時の権利(利益)をどうするかという議論は、長年日本でもさまざまな提言がされてきましたが、仮に100%組織側の利益にして、発明者個人から発明に関する権利をすべて取り上げたら、どうなるか。ごく一時的に企業組織に利益が出ても、やがてこの仕組みは破たんするでしょう。なぜなら、個人がその企業組織内で、新たな発明をする意欲を完全に失わせるからです。
これは「どちらか一方しか成り立たない」と考える視野の狭いトレードオフの盲信による典型的な失敗です。ハメルの提言する戦略によるなら「個人が発明をどんどんしたいと思う魅力的な環境と条件を創り上げ、なおかつ個人と企業の利益をバランスできる」新たなルールが必要とされるのです。
優れた戦略というものが、私たちの「思い込みの壁」を効果的に打破してくれる存在だと気付くなら、戦略の本質に一歩近づいていると言えるでしょう。
では、次のページから、今の日本人にとって最も有効な戦略書の第5~10位をご紹介します。