これまで数回にわたって確定拠出年金(以下、DC)で上手に運用するには、人的資本つまり年齢を考慮するのはもちろん、老後におけるDCの活用方法や確定給付年金(以下、DB)の有無も考慮に入れることが大事だと主張してきました。前回は老後のDCの活用が老後資金の形成におよぼす影響について触れ、老後も運用する場合としない場合で現役時代の積立額が大きく変わることから、老後も運用する効果は絶大だとお話ししました。今回はこれをもう少し展開する形で、もう一つのポイントである、DBの有無が老後資金の形成に与える影響を考えてみます。
DBからの給付は安定した収入源
当連載ではこれまで事あるごとに人的資本の考え方について触れてきました。おそらく連載を読んでくださっているオヤジのみなさんなら、もう“耳たこ”かもしれませんが、念のため説明すると、人的資本とは将来稼ぐ収入を現在の価値に換算したものであり、一般的に収入が安定している日本人の人的資本は、債券のように低リスクだと考えられます。加齢とともに将来働く期間が短くなるため、徐々に人的資本は減少し、定年退職後には人的資本はゼロになってしまいます。ここで発想を変えて、労働収入だけでなく、老後にもらえる他の収入まで含めて考えるとどうなるでしょうか。代表的な老後の収入として、公的年金と確定給付企業年金があげられます。公的年金は一定の要件を満たせば給付されるものですし、今回のテーマはDBの有無が資産形成に与える影響ですから、これ以降はDBのみに着目して議論します。
DBからの給付は一定で終身年金の場合も多いですから、ある意味DBからの収入は償還がなく、生きている限り確定している利子を受け取れる債券を持っているようなイメージになります。イギリスにはコンソル公債という永久に一定の利子が支払われる債券がありますが、DBはこの公債に近いとみなせるため、DBからの給付はこの公債のようにリスクが低く、安全度の高い人的資本を有していることと同義になります。低リスクな人的資本は運用におけるリスク・キャパシティの向上を意味するため、金融資産の運用、つまりDCではリスクが取れることになるのです。