たとえば、英国で2006年11月に毒殺されたロシアの元諜報員リトビネンコ。日本をはじめ世界のほとんどの国で、「ロシアがやった」が定説になっている。

 ところがロシア人は、「リトビネンコは、プーチンと対立していたユダヤ系の政商ベレゾフスキーに殺された」「(英国情報機関)MI6にやられた」などと信じている。

 あるいは今年7月の「マレーシア航空機墜落事件」。日本や欧米では、ウクライナ東部「親ロシア派」の誤射が原因とされている。ところがロシアでは、ほぼ全国民が「ウクライナ軍がやった」と真剣に信じている。

 こんなとき、日本人は自動的に「そんなもん、独裁国家のロシアがウソをつき、民主主義の欧米が真実を流しているに決まっている」と確信する。

 ほとんど場合、それは正しいだろう。しかし「いつでも欧米の報道が真実だ」と信じるのも危険である。皆さんも、米国政府が挙げていた「イラク攻撃の根拠」、すなわち「フセインは国際テロ組織アルカイダを支援している」「フセインは大量破壊兵器を保有している」が、両方とも「大ウソ」だったことは、既にご存知だろう。

 もう一つ、比較的最近の例を挙げておこう。

 13年、オバマ大統領は、「シリアを攻撃しなければならない!」と熱心に主張していた。理由は、「アサドの軍が『化学兵器』を使い、『レッドライン』を越えたから」というものだった。しかし、こちらの記事を熟読していただきたい(太線筆者、以下同じ)。

<シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官
AFP=時事5月5日(月)配信
[AFP=時事]シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。
 スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証を得る必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。>