3月8日に販売開始した、ソフトバンクモバイル(SB)向け東芝製携帯電話端末821T、通称「かんたん携帯」。どこかで見たようなデザインである。キャッチコピーも「かんたん」「見やすい」「あんしん」「しんせつ」と、聞いたことのあるフレーズではないか。

 そう、NTTドコモ向けの富士通製「らくらくホン」シリーズと「そっくりなのだ。ドコモが「ユニバーサルデザインとして完成度の高いものを」と提案し、2001年にシニア向けとして市場投入され、2007年8月に発売された「らくらくホン4」で7代目となる。改廃の早い端末業界で、累計販売台数1000万台を超える異例のロングセラーとなっている。

 開発・製造を請け負う富士通は、端末事業単独の収益は開示していないが、高機能機種でヒットが出始めた昨年以前は、売上高の半分以上を占め、そうとうの利益が上がっていた模様だ。業界では“らくらくバブル”と羨望されるほどだった。

 シェア3位のSBは、ドコモやKDDIのユーザーを切り崩すべく、若年層など新規市場を攻めてきた。シニア市場も視野に入れ、らくらくホンの成功に目を向けるのは当然だろう。

 対して、ドコモと富士通は17日、ソフトバンクモバイルと東芝に、該当機種の製造・販売差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てた。

 「SBから最初に出されたシャープ製アクオス携帯を、後からドコモで出した例もある」と認めるドコモ関係者もいるが、それは単一メーカーが同じブランドの端末として複数通信事業者向けに展開した事例。今回のようにコンセプトから製品内容、販売法に至るまで、別の通信事業者と製造メーカーが似せたケースとは異なる。

 こうした熾烈な携帯端末開発競争の裏では、人材の奪い合いにも拍車がかかっている。元祖の富士通からSBに移籍した開発担当者が「かんたん携帯」開発の一翼を担っている。「ある意味、らくらくホンの正統な系譜を継ぐ機種」と業界で揶揄されるほどだ。SBの戦略としては理解でき、あくまで「移籍は2年以上前で、本人の意思によるもの」と反論する。

 「かんたん携帯」の製造・販売等の差止めに関する申し立ての結果は、早ければ1週間程度で仮処分の行方が定まる見通しだ。端末開発競争が激化するなか、“場外乱闘”も熾烈化している。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 柴田むつみ)