岸見 そのあたりはどうなんですか。社会的なつながりとか、仕事ということについて、オタクと言われている人たちはどんな道を歩んでいるんでしょう。
小林 もちろん一概には言えませんが、けっこう多いのは、自分の好きなグッズを買うために一生懸命働くという人ですね。『ぼんとリンちゃん』に出てくる「べびちゃん」という中年男もそうです。彼のキャラクター作りのために数人の中年のオタクにリサーチをしました。彼らは「オタク=引きこもり」じゃないとまず最初に言います。で、「いろいろなグッズを買ったりゲームを買ったりするためには、それなりにお金が必要なんです。だから一生懸命働かないとダメなんです!」と。1個のゲームが1万〜1万5000円くらいするそうで、そのエロゲーって言われるやつを買うために真面目に仕事をしてるとおっしゃっていました。「それなのに引きこもりと言われるのはおかしい!」って(笑)。
岸見 アドラーは「人生の調和」という言い方をします。たとえば、仕事以外に興味がないワーカホリックのような生き方は望ましくないと言うわけです。でも今の話を聞くと、オタクの人は意外にバランスが取れていますよね。
小林 そう思います。あと、海外にはプロゲーマーと言われる人たちがいます。ゲーム分野の賞金稼ぎみたいな感じですね。そういう人はオタク的に好きなことを楽しんで仕事としても極めているわけですよ。
岸見 そのあたりで私は思うのですが、ひょっとするとオタクに対して批判的な人は、先ほど言った「人生には苦しみがある」ということの意味を曲解しているのかもしれません。楽しく生きるとか、遊びのように生きている人に対して、すごく偏見を持っている。その一方で、実は羨ましいのかもしれない。親御さんから、子どもの生き方について相談を受けるのも、ほとんどは子どもが親の理解を超えた行動をするときです。そのとき親が感じているのは怒りや反発ではなくて、本当は羨望なのかもしれない。
小林 なんか楽しそうですもんね。それでずっとやっていければ、こんなにいいことはないわけです(笑)。
(続く)