盆栽は、2~3年に1度の目安で冬季に植え替えをする。写真は、もみじの木の植え替え候補にした、色違いの鉢を並べたところ。“鋲”を模した飾りは日本の太鼓をイメージしている。もみじは春の新緑、夏の緑、秋の紅葉と、葉の色が変わるので、どのシーンをイメージして楽しもうとするかで選ぶ鉢も変わってくるそうだ

 日本の盆栽が海外で人気だという話はよく耳にするが、それに負けず劣らず、鉢も人気だとは知らなかった。日本の盆栽鉢を世界へ発信しよう、とこの8月に「ゆきもの」というオンラインサイトを立ち上げた、笠井有紀子さんが言う。

「海外でTOKONAMEと言ったら、ハイクオリティー盆栽鉢の代名詞。キラーワードになっています」

 それにしても謎だ。愛知県の常滑焼はたしかに、瀬戸や信楽、越前、丹波、備前などと並んで「日本六古窯」の一つに数えられている。しかし、国内で知られているのは主に朱泥の急須などで、盆栽用の鉢が有名だなどという話は聞いたことがない。

 これはいったい、どうしたことだろうか?

無料配布キャンペーンに
世界19ヵ国からオファー殺到

5月に海外へキャンペーン配布したときの鉢。釉色鉢を専門とする盆栽鉢作家、片岡秀美さんの作品。「欧米で好まれる明るい色の鉢を作ってもらった」

──常滑の鉢って、海外ではそんなに有名なんですか?

「盆栽をやっている人たちの間では、漆器=ジャパンと同じくらいに有名です。じつは、日本の盆栽鉢を販売するサイトを立ち上げるにあたり、マーケティングリサーチのつもりでちょっとした無料配布キャンペーンをしたんです。インスタグラムを通じて『常滑の鉢を送るよー、欲しい人は連絡先を教えてね』と。そうしたら、一晩で100人近く、19ヵ国から応募が殺到し、即締め切らなければなりませんでした。

 最初は無料だからかな、とも思ったんです。冷やかしも多いだろうと心配したんですけれども、申し込んできた9割は実際に盆栽をやっている人でした」

──どれくらいの個数を配ったんですか?

「全部でおよそ100個。モノをやりとりすることで各国の郵送事情を確かめたい狙いもあったんです。結果、割れて届いたのが3、4個。だいたいは1、2週間で届きましたけれど、ブラジルへは1ヵ月もかかってしまいました。

 聞いたら、郵便局員のストライキがあったらしいんです。ちょうどワールドカップが開催されている時期だったんですけれど。日本では、考えられないですよね」

 笠井さんはもともとフリーランスの編集者だ。それがどうして盆栽を始めるようになり、さらには鉢にハマるようになったのか。

──いつから盆栽をやるようになったんですか?

「本格的には2011年から。でも、その数年前からちょこちょこ習ってはいたんです。きっかけは取材で盆栽園を訪ねたこと。そこで外国人が盆栽を楽しんでいるのを見て、へえ、と思ったのが最初ですね」

──外国人に触発されたんですか?

「そうなんですよ。じつは私、合気道も習っているんですけれども、これも外国人の影響で。出会い頭にいきなり手首を掴まれて、『えいっ』と投げ飛ばされちゃったんですね」

──ええーっ!?

「日本人はみんな柔道か合気道を習っているものだと思ったらしく……。もちろん、冗談のつもりだったと思いますけれど。ただ、その体験があまりに強烈だったので、私もやってみようと思って習い始めました。でも、万年初段です」