「この道しかない」。安倍首相はアベノミクスを前面に押し立て総選挙に臨み、これから4年間の信任を得た。憲法改正を視野に長期政権を目指す首相の前には数々の難題が待ち受ける。日本の政界では敵なしでも、経済や国際政治の現場は容赦ない。シナリオが狂ったアベノミクスにどう始末をつけるのか。さらに手ごわいのはイスラム国だ。米国が地上戦に踏み切った時、日本の命運が問われる。

対イスラム国で協力を求められたら

 この二年間で安倍政権の性格を鮮明にしたのが集団的自衛権を合憲としたことだろう。憲法9条がある以上認められないとするこれまでの解釈を覆した。次のステップは憲法改正であるという指針を鮮明にした。強引な手法で目指すところは米国との同盟強化である。隣国の中国と緊張関係を高め、米国の後ろ盾で対抗する。この姿勢はこれまで「極東」に限定していた日米安保条約の対象地域を「世界」に広げる結果となった。集団的自衛権を踏まえて変更される日米防衛協力のガイドラインの見直しも、与党が3分の2超を占める国会は難なく通すだろう。

 防衛協力は制度として強化される。次は行動が問われる。米国にとって最大の懸案はイスラム国とロシアである。弱腰と非難を受けるオバマ政権はイスラム国に強硬姿勢で臨む構えだ。空爆には限界がある。地上戦は時間の問題とされる。戦いにはすでに多くの国が参加している。協力を求められた時、日本はどうするのか。

 閣議決定で決めた集団的自衛権には「三要件」が付けられた。(1)我が国に対する急迫不正の侵害、(2)他の適当な手段がない、(3)必要最小限度の実力行使、である。この三要件がある限りイスラム国への武力行使に参加できない、というのが政府の考えだ。その通りに行くだろうか。戦闘の参加できなくても、後方支援という協力がある。

 イラク攻撃の時、日本は輸送機による兵員輸送や艦船への給油、サマワでの給水事業など後方での支援に参加した。今度は自ら集団的自衛権に加わりながら、安倍首相は米国に「何もできません」と言えるだろうか。小泉首相はブッシュ大統領に頼まれ「自衛隊のいるところは非戦闘地域」という珍妙な説明で自衛隊を派遣した。

 後方支援でもイスラム国と闘う有志連合に日本は加わることになる。イラクと違い、イスラム国の戦闘員は世界各地に潜んでいる。後方支援すれば自衛隊は標的にされるだろう。大使館など世界各地の日本の施設が狙われるかもしれない。