経木の隅まで納豆が詰められているのはパートさんの技術。手慣れたものでした

「ひとつひとつ丁寧にパートさんがやっている、というのが本当のところです。師匠からある時、『君のところの室にはねずみがいる。退治してこい』と言われたんです。当然、いるわけないのですが、次に行った時にも『やっぱりいる』と言うのです。どういうことだろう、と思っていると『この三角形の隅に豆が入っていない。豆腐の角に頭をぶつけて死んじまえっていう言葉があるだろう。それで言うならうちの豆腐はすべて角があるので死ねる。スーパーの安い豆腐なら角が欠けていても安いからいいか、で収まる。でも、値段をとるなら駄目だ』と。『手作りだから、世界でひとつしかない、バラバラでいいっていう言い訳は駄目なんだ、と。日本の職人技はそういうものじゃない。たくさんのものを寸分違わず同じにつくるのが技術なんだ』」

 たしかにこの連載で職人の技術に触れることがあるが、日本の職人は天然素材という不均一なものに手間暇と技術を注ぎ込み、均一にし、隅と縁を整え、美しい製品に変えていくことに気づかされる。

「細かいところに心が行き届いていてはじめて、お客様に満足していただけるんじゃないでしょうか」

大震災当時、スーパーから消えた納豆
下仁田納豆にはオール群馬県産の強みも

大豆の挽き割り機。原材料名を見て、ひき割り大豆と書いてあるものは挽き割られた大豆を仕入れていると考えていい。この取材で僕もはじめて知りました

 工場を見学させていただいた。内部の様子は動画に詳しいが、清潔さは菌を扱う工場の必要にして最大の条件だ。クリーンな環境が雑味のない味を生むことは言うまでもない。

 パートの方々が手慣れた作業で経木に大豆を詰めていく。本当にすべてが手作業なことに驚いた。(当たり前のことだが)バックヤードは整理され、空袋などのゴミが積み上がったりはしていない。

「大豆はやはり生鮮食品です。多く含んだ油脂が酸化しやすいので倉庫には直近で使う分だけを積んでおくようにしています。他にも酸化を防ぐため、ひき割り納豆の製造に使う挽き割り機も自分たちで所有し、直前に粉砕しています」

納豆菌がまぶされた煮上がった大豆。潰れているものや皮が傷ついているものはこの工程で手作業により丁寧に取り除かれていました

 大豆を水に浸し、それを加熱する。そこに納豆菌をまぶし、経木に詰めていく。それを室で発酵させる。その後、温度を下げるための熟成と呼ばれる期間を経て、商品は完成である。昔ながらの炭火発酵のメリットはエアコンを使っての温度調整とは違い空気の対流がないため、乾燥を避けることができることだ。湿度は納豆菌の活動を助けるのである。

 ところで東日本大震災が発生した時、最後まで商品が棚に戻らなかったのが納豆だった。

「私が聞いたところでは計画停電になって温度調整ができなくなり、生産が滞ったというケースもあったようです。大手さんですと製造ラインが精密機械なので、余震が起きると止まってしまうということもあります。うちくらいですと余震があっても手作りなので、調整が利くんですけど。もうひとつはグローバルに材料を集めているところに弱点があったと思います。例えば大豆はアメリカや中国から、発泡トレイは石油化学製品なのでタンカーで、タレも辛子も……という具合に、そうしているとどこかひとつ寸断されるとつくれなくなってしまう。そんな反省も含めて、商品ラインナップに材料はオール群馬県産というものも加えています。経木はもちろん、大豆も群馬県。タレはちかくの有田屋さんという具合です」