小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実#5政界最大の黒幕といわれた辻嘉六。1945年に結党された日本自由党の結党資金を提供した

「政界最大の黒幕」といわれた辻嘉六は、自由民主党の母体となる日本自由党の結党資金を提供するなどして政治を裏から動かした。だが、自分の功績について多くを語らなかったこともあり、いまだに謎の多い人物である。『昭和の女帝 小説・フィクサーたちの群像』のモデルである女性フィクサーの謎に迫る、特集『小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実』の#5では、彼女の父である辻嘉六の生い立ちから、その資金源となっていた児玉誉士夫とのきなくさい関係などを明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

日露戦争で、児玉源太郎の右腕として活躍
帰国後は鳩山一郎など有力政治家のスポンサーに

 辻嘉六のことは、歴史の教科書に一切載っていない。銅像も立っていない。だが、彼は、日本の政党政治の礎を築いたといっても過言ではないほどの重要人物である。

 下の画像は、日本自由党が1947年3月に発行した機関誌の創刊号の目次だ。同誌の1ページ目には、大野伴睦(後の衆議院議長)による発刊の辞が掲載されている。大野は当時、元外務官僚で政治的な駆け引きには疎い面があった首相の吉田茂を、党人派の代表として支えていた。その大野に次いで、「発刊を祝す」という文章を寄せているのが辻嘉六なのだ。党総裁でもある吉田の「講和会議と日本再建への道」という論文より前に、辻嘉六の文章が掲載されていたのである。

日本自由党再建創刊号目次日本自由党が1947年に発行した機関誌の創刊号の目次 拡大画像表示

 辻嘉六がそこまで重きを置かれていたのは、日本自由党の結党資金として、7000万円ともいわれるカネを用立てたからだ(詳細は本特集の#8『自民党の前身・日本自由党の結党資金390億円を提供…「政界の黒幕」辻嘉六と児玉誉士夫による秘密工作の全貌〈12月26日公開予定〉』参照)。

 辻嘉六は、日本自由党にカネを出すだけでなく、口も出していた。娘の辻トシ子は生前、ノンフィクション作家の石井妙子による取材に応じ、第1次吉田内閣で内閣書記官長(いまの内閣官房長官)だった林譲治が毎朝、辻嘉六の屋敷に寄って、記者会見などでの発言について助言を受けていたことを明らかにしている。

 裏で政治を動かすこと、有望な若手政治家を育てることが辻嘉六の生きがいだった。

 辻嘉六には、「政商」の顔もあり、鉱山、製材所、化学メーカー、通信社などを経営していたとされる。政商や黒幕として、大正や昭和の時代を操った辻嘉六とは何者か――。


 

『昭和の女帝』書影

昭和の女帝
小説・フィクサーたちの群像

千本木啓文著

<内容紹介>
自民党の“裏面史”を初めて明かす!歴代政権の裏で絶大な影響力を誇った女性フィクサー。ホステスから政治家秘書に転じ、米CIAと通じて財務省や経産省を操った。日本自由党(自民党の前身)の結党資金を提供した「政界の黒幕」の娘を名乗ったが、その出自には秘密があった。政敵・庶民宰相との壮絶な権力闘争の行方は?

「昭和の女帝」の父で“政界最大の黒幕”と呼ばれた辻嘉六…自民党のゴッドファザーとなった最後の“大陸浪人”のカネとオンナ「昭和の女帝」の父で“政界最大の黒幕”と呼ばれた辻嘉六…自民党のゴッドファザーとなった最後の“大陸浪人”のカネとオンナ「昭和の女帝」の父で“政界最大の黒幕”と呼ばれた辻嘉六…自民党のゴッドファザーとなった最後の“大陸浪人”のカネとオンナ「昭和の女帝」の父で“政界最大の黒幕”と呼ばれた辻嘉六…自民党のゴッドファザーとなった最後の“大陸浪人”のカネとオンナ
『昭和の女帝』ドキュメンタリー動画