今年は終戦から70年に当たる。この間、日本は戦闘で1弾も発射せず、1人の戦死者も出していない。海外に対する政治・軍事的野心を一切持たず、抑制が効いた対外政策を保った「平和主義」は、未曽有の経済的発展をもたらした。大きな曲がり角に立つ日本にとって、「奇跡」とも言える歩みを振り返ることは、これからの進路を考える上で、ぜひとも必要なことだ。

日本の戦後70年は「奇跡」に近い

 今年は第2次世界大戦の終戦から70年に当たり、欧州、アジア等で多くの記念行事が予定されている。米、ロ、中、英、仏などにとっては戦勝を祝賀し、連合国の協力を回顧する好機だ。一方で、日、独など旧枢軸国にとっては自省を示しつつ、未来へ向けて主要国としての矜持を保ちたいところだから、姿勢も修辞もなかなか難しい。安倍首相は1月5日、伊勢神宮参拝後の年頭記者会見で、8月15日の終戦記念日に発表する予定の首相談話について「村山談話を含め歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体と引き継いでいく」と強調、そのうえで「アジア太平洋地域や世界のためにどのような貢献をするのか、英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく」と述べた。

 米国が日本に対し、中国、韓国との関係改善を強く求める中、安倍氏は従来の言動の結果、内外で流布した「右翼的歴史修正主義者」との印象を薄めようと努め「積極的平和主義」を売り込もうとするだろうが、彼の支持者の中には戦後体制を屈辱的、歴史の汚点と感じ、中国、韓国への反感を露骨に示す人が多いだけに、難しい綱渡りになりそうだ。

 だが、大局的に見れば、将来の史家は戦後70年を日本史上の「黄金時代」と呼ぶかもしれない。日本のようにこの70年間戦争をせず、平和を享受してきた国は世界196ヵ国(北朝鮮を含む)の中でも極めて少ない。2011年に米英軍による攻撃で始まったアフガン戦争では、ドイツは最大時5000人を派遣し、死者54人が出た。中立国だったスウェーデンも最大時506人を派遣、死者5人、オーストリアは派遣3人(死者なし)、フィンランドは派遣181人(死者2人)、アイスランドは8人(死者なし)、スイスも密かに32人を出し、軽傷者2人との報道もあった。

 欧州でも、南北アメリカ、アジア、中東、アフリカ、太平洋でも、ほとんどの国が第2次大戦後も直接の戦争当事国となったり、海外派兵を行い、内戦が起こるなど、多くの戦死者を出してきた。そのなかで、人口1億2800万人、GDP4.8兆ドルの大国である日本が70年間も戦闘で1弾も発射せず、テロの犠牲以外には1人の戦死者も出していないのは奇跡に近い平和政策の成功、と思わざるをえない。

 日本では過去にもこれに似た黄金時代があった。慶長20年(1615)5月に大坂城が陥落し、7月に「元和」と改元して平和の始まりを祝った「元和偃武」(げんなえんぶ・「偃」はとどめるの意)以後、嘉永6年(1853)のペリー来航まで238年間、「島原の乱」(寛永14年、1637)や北海道東部での「シャクシャインの乱」(寛文9年、1669)など地域的な反乱はあったが、基本的には泰平の時期が続いた。