これらの結果が示しているとおり、1人ひとりのアイデンティティや強みの発揮を促すオリエンテーションやトレーニングを行う戦術は、従業員と組織の双方に有益な効果を生み出す。ここでもまた、フレーミングは強力な影響を及ぼしており、結果として、私たちの仮説は裏づけられた。

 さらに重要なのは、この結果を知ったウィプロの経営陣が、従業員の意欲を維持して在職期間を長くするように彼らの仕事をフレーミングする最良の方法についてじっくり考え、新入社員のオリエンテーションをフレーミングする方法を変えようという気になったことだ。経営陣は初め、会社が従業員に何を提供できるかを強調するほうが、従業員の強みを強調するより効果的だろうと、直感的に思っていた。ダニエルとブラッドリーと私は、まさにその逆であることを実証し、それによって、直感はかならずしも正しいわけではないことを示した。

 実験結果はまた、別の重要な点も際立たせてくれた。会社に溶け込み、仕事で成果をあげるという新人の計画は、オンボーディング・プロセスのフレーミングの仕方から影響を受けて脱線してしまっていたのだ。

<意思決定の原則8>選択肢の「型」を見破る

 第8の原則はこうなる。

〈原則8〉フレーミング――選択肢の「型」を見破る

 この原則は、課題や報酬や選択肢がどう構築されているかを問い、同じ情報であってもほかにどんなふうにフレーミングできるかをよく考えることの重要性を際立たせてくれる。フレーミングの仕方にもっと注意を払えば、必要以上にフレーミングに影響されることを避け、当初の計画や目標を達成する可能性を高めることができる。

この原則を実行に移す1つの方法は、目の前の決定について反事実的に考えることだ。反事実的に考えるというのは、意思決定を行うにあたって、自分が選びうる、または選びえた別のさまざまな選択肢を想像することを意味する。

 たとえば大きな買い物や投資といった、過去に自分が下した決定について考えてみよう。反事実的な考え方をするためには、自分がとったかもしれない別のさまざまな行動についてよく考えてみる(たとえば、車を買ったときに、その車ではなくもっと安いモデルを選ぶこともできた、というふうに)。すでに下した決定に代わる別の選択肢についてじっくり考えてみると、そもそもあなたにその特定の道を選ばせた要因が何だったのかがもっとよくわかってくるだろう(車の燃費よりもブランドに目が向いていた、というように)。

 これと同じように、反事実的な思考を使うと、目前の選択肢について論理的に考えることができる。反事実的な思考をするというのは、特定の結果に代わる別の選択肢を考えることなので、それによって、単一の視点からそれ以外のもっと多くの視点へと、私たちの見方が広がる。このようにじっくり考えることで、ほかのさまざまな視点にも注目し、あなたがすでに下した決定、あるいは今まさに下そうとしている決定について、よりバランスのとれた見方ができるようになる。反事実的に考えれば、フレーミングがあなたの選択にどのように影響するかについての理解を深めることができるのだ。

(了)

※本連載は、『失敗は「そこ」からはじまる』の一部を抜粋し、編集して構成しています。