今回ご紹介するのは『渡邊守章評論集 越境する伝統』です。日本を代表するフランス文学者による、舞台芸術に関する評論集。550頁を超える大著です。

フランス文学を中心に
能、狂言にも詳しい哲人の評論集

渡邊守章著『渡邊守章評論集 越境する伝統』2009年12月刊。厚さはおよそ33ミリ。存在感があります

 1933年生まれの渡邊守章氏は2015年に83歳を迎えます。日本を代表するフランス文学者であり、劇作家、演出家でもあります。2014年3月まで京都造形芸術大学教授、それ以前は放送大学教授、東京大学教養学部教授を歴任しました。専攻はフランス文学ですが、能、狂言など日本の伝統芸能にもくわしく、論考の領域は広大です。

 本書『越境する伝統』は長年にわたり、フランス文学、哲学、現代思想から日本の伝統芸能にまで目を配り、さらに演出まで行なってきた大知識人による評論集です。

 著者によると、本書編集の主眼はこうです。

 ここに纏めたのは、二十一世紀になってから書いた、舞台芸術に関する論文・エッセーの主なものである。加えて、随分と昔のことになるが、種々の理由で、これまで評論集に収めてこなかった一九七〇年代、八〇年代のテキストも、一種の遠近法的効果を狙って、選んである。今年の九月に、新書館から刊行した『快楽と欲望――舞台の幻想について』が、二、三の例外を除いて、全て二十世紀の最後の十年間に書いたものであったから、これで一応、現在まで到り着いたわけである。(541ページ)