日本料理屋に参入した華僑とフランス人

 ではパリのすべての日本料理屋は、上述したような「何でも屋」ばかりなのか? 一部ではそうと言えるものの、じつはもっと重層的だ。これを知るために、パリの日本料理屋の構造をひも解いていこう。まず店舗を大別すると、日本人、華僑、フランス人と、3種類に分けられる。

 日系は主にオペラ地区と呼ばれる、パリ中心部オペラ座(パレ・ガルニエ)南東の地区に集まっている。日本のテレビなどでよく、「パリにこんなにたくさん日本料理屋が!」と紹介される場所がここである。

 同地区ではラーメン、うどんなどを中心とした大衆日本料理と、すしや一品料理などを提供する、値段が高めの店が連なっている。中華系、韓国系の店もあるが、基本的にこの地区の日系店は、日本料理黎明期からパリでレストランを営んできた日本人オーナーたちによって営まれている。

 パリの日本料理の歴史は、1958年に「たから」という、パリで初めての日本料理屋ができたことにさかのぼる。同地区で飲食店を経営するオーナーによれば、かつての日本料理屋は、今のように一般的なフランス人が食べに来るような場所ではなく、在仏日本人のためのレストランという意味合いが強かったそうだ。ラーメン屋やうどん屋のような店は、在仏日本人が日常的に使う食堂として、高めの店舗は、日本企業の駐在員などが接待に使うためにあった。

 しかし転機が訪れる。中華系日本料理屋が和食ビジネスに参入してきたのだ。中華系店舗は一目瞭然で、赤や青の派手なネオンに「Sushi」「Sashimi」「Yakitori」の文字がかかる。今ではパリの街並みの中で、すっかり見慣れた風景になった。

 きっかけの一つは、当時社会問題となった中華料理屋(特に持ち帰り店)の衛生管理だ。食品会社の担当者によれば、中華料理屋の不衛生さがテレビで報道されると、それを嫌ったフランス人たちは中華料理屋から遠のいたという。困った中華系オーナーは、イメージが失落していない日本料理屋に衣替えし、落ちた客足を取り戻そうとした。そこで一気に、フランスの日本料理屋は軒数を伸ばしたそうだ。現在フランスにある日本料理屋の大部分は中華系である。

日本料理の未来を示唆するパリの和食事情今では至る所で見られる中華系日本料理屋と、すしから焼鳥、うどんまでバラエティに富むメニュー

 日本人から見ると中華系日本料理屋はすぐに判別できるが、フランス人はどうなのか? 先述の食品会社担当者によれば、フランス人も区別できている人は多いという。区別していながらも、身近にあり手軽なので、日本っぽい雰囲気を味わうために通うのだそうだ。メニューはどこも、すし、刺身、焼鳥を柱にすえて、価格帯はリーズナブルに抑えてある。

 中華系と同時に、和食ビジネスの先見性に目をつけて、店舗を増やしてきたのが「Planet Sushi」「Sushi Shop」などのフランス系資本である。すしにフランス風アレンジを加え、モダンなものとして売り出した。価格もそれほど高くなく、店内は明るいデザインで、ヘルシーとオシャレさを前面に出す。フレンチの有名シェフとコラボレーションするなど、日本料理を使い一つの流行を作った。

 中華系、フランス系どちらも、持ち帰りや宅配に力を入れており、家庭の郵便受けにはこれらすし屋のチラシが、ピザ屋の広告のように、よく入っている。すしの出前は、すでにフランスでも行われている。 

日本料理の未来を示唆するパリの和食事情宅配ずし国内トップをうたう「Sushi Shop」の店舗と、日本料理は一通り揃う「Planet Sushi」の宅配メニュー