静岡がんセンターでは、患者の遺伝子情報をがんの医療に生かすプロジェクトを進めている。オーダーメードな治療やがんの早期発見、予防にも活用しようという試みだ。ダイヤモンドQ編集部が紹介する。

 昨今話題の遺伝子医療は「SFの世界」と思っている読者は多いだろう。だが、それはすでにリアル世界の出来事だ。静岡県立静岡がんセンターは2014年1月から、「プロジェクトHOPE(希望)」と名付け、患者個々人の遺伝子情報を、がん診療に生かす取り組みを進めている。

患者個々人の遺伝子情報をがん診療に生かす取り組みを進める静岡がんセンター

 対象者は同センターでがん摘出手術を受ける患者の約3分の1程度を占める(年間約1000人)。3年間で3000人について、がん特有の遺伝子の変化やタンパク質の異常、代謝産物の異常などを統合的に解析し、患者一人一人の診断や治療に還元させていく。その成果は、新しいがん診断・治療の研究開発にも役立てる。「一つの病院で手術を受ける患者について、これだけの解析を行い、その結果をリアルタイムに診療に生かす試みは、世界的にも例がない」と同センターの山口建総長は胸を張る。

 プロジェクトHOPEの目標は、患者個々人向けの「がんの個別化医療の推進」、がんを予防する「未病医学の実践」、そして「医療スタッフ・研究者の学習」「研究と開発」の4点。

「がんの個別化医療の推進」においては、すでに昨年8月の時点で、当初収集した220例の分析によって、がんの増殖・進展に関わる可能性が高い遺伝子変異や遺伝子発現異常が74%の症例で見つかっているという。臨床の現場では、こうしたデータを用い、患者一人一人のがんの性質を把握しておくとともに、再発に万全の体制で備えることができる。例えば将来、再発した場合には、個々のがんの特性に見合った抗がん剤の選択を確実かつ迅速に行うことができるのだ。