いまの日本は、生活保護制度で人々を「甘やかす」から「働けるのに働かない状態」が促進されているのだろうか? 生活保護も含め、現在の日本にとって重い負担となっている社会保障は削減するしかないのだろうか?

本シリーズ最終回となる今回は、これらの疑問を解きほぐし、現状を正確に理解するための糸口を提供したい。さらに、現在の生活保護制度の問題点と、その問題点の短期的な解決・長期的な解決について考える。

神話「生活保護のせいで働けるのに働かない人が生まれる」は
どこが誤っているのか?

岩田正美(いわた・まさみ)氏
1947年生まれ。博士論文『戦後社会福祉の展開と大都市最底辺』(ミネルヴァ書房)で第2回社会政策学会学術賞などを受賞。研究テーマは貧困・社会的排除・福祉政策を中心として幅広い。現在、日本女子大学教授。
Photo by Yoshiko Miwa

 今回は、前回に引き続き、社会福祉学者・岩田正美氏へのインタビューを紹介する。

 前半では生活保護に関する「神話」「迷信」「都市伝説」のうち、特に重大だと筆者が考えている3つを検証し、後半では、現在の生活保護制度の問題点と解決方法を探る。最初に、

「生活保護のせいで、働けるのに働かない人が!」

 と、そのバリエーション

「生活保護利用者の生活は、十分に惨めでなくては。そうしなくては、誰も働かなくなるから」

 について考えよう。

「現実はむしろ逆なんです。その人たちは、『働く場がないために、公的扶助でぶらぶらしている』しかないのだと思います。生活保護の世帯類型の『その他の世帯』の世帯主など、稼働年齢で障害も傷病もないのに働いていない人は、『働けるのにぶらぶらしている』と言われがちなのですけれども」(岩田氏)

 稼働年齢とはいえ、しばしば50代や60代。履歴書には長い空白期間があったりする。「労働市場から押し出されて、戻れない」が正確なところだ。

「生活保護や社会保障が『惰民』を作るという神話は、世界中で長い間流通しています。でも、繰り返しますが、現実は逆です」(岩田氏)

 では、なぜ、生活保護法の目的の一つとして「自立を助長」が明記されているのだろうか?

「それは、その『惰民育成』という神話に対応してのことです。『惰民育成』神話があったので、労働能力の活用が生活保護利用の要件となりました。『生業扶助』という扶助が当初から含められていたのも、同じ理由によっています。当時は、零細な自営業などが想定されていたのですが」(岩田氏)

 戦後70年が経過する間に、「働く」の内容も変化してきた。