キッチンでうつむく女性写真はイメージです Photo:PIXTA

夫の仕事をサポートし、子どもの健康を支え、ご近所づきあいも完璧にこなす。そんな母が理想の専業主婦の形だと言う人もいるが、それが家庭円満につながるとは限らない。実際、アガサ・クリスティーの名作『春にして君を離れ』のジョーンは完璧な母親そのものだったが、どんどん孤独を深めていく。ジョーンから学ぶ、家族の絆を深める生き方とは?※本稿は、文筆家の堀越英美『あなたのモヤモヤに効く世界文学 恋愛から仕事、親子関係、中年危機まで』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

アガサ・クリスティーが描いた
理想の母・ジョーン

 一昔前は、「専業主婦こそが女性にとって最も尊い仕事である」とよく言われていました。

 共働きや独身女性が増えた現代においても、女性は外で働くよりも家族の世話をすることに生きがいを見いだすべきであるという社会通念は根強く残っています。

 一方で、「子持ちの女性」というだけで「働いたことのない世間知らず」と見下されることもしばしばあります。資本主義社会において、お金を稼がない者の立場は弱く、下に見られやすいのが現実です。

 こうした建前と本音のはざまで、孤独を感じる主婦は少なくありません。ミステリーの女王アガサ・クリスティーが、建前に翻弄される専業主婦の孤独をサスペンス仕立てで描いたのが、『春にして君を離れ』です。

 弁護士の妻である主人公ジョーンの人生は、当時の女性の理想像そのものでした。

 3人の子どもを育て上げ、夫の出世をサポートし、地元コミュニティでは理事や評議員、ガールスカウトのリーダーを務める地域の顔です。