標題曲“明日に架ける橋”は、印象的な変ホ長調のピアノから始まります。名手ラリー・ネクテルの品格ある演奏が、崇高なゴスペル的雰囲気を盛り上げます。

 真の友情を謳いあげた歌詞は、余りに綺麗すぎて偽善の香と嫌味な印象がなくもありませんが、アート・ガーファンクルの天使の声が高貴な旋律を歌えば、そんな俗っぽさも消し去ります。

 “明日に架ける橋”は世代を超え、ジャンルを越えて、存在する音楽の遥かなる高みに届く素晴らしき響きです。

 実は、グラミー3冠王のこの傑作アルバムは、S&G解散の瀬戸際で何とか制作されました。ガーファンクルは映画の撮影で多忙を極めていましたが、何とか完成させ、音楽的にも商業的にも高い評価を得ます。しかし結局、S&G最期のアルバムとなりました。

 S&Gの公演でガーファンクルが“明日に架ける橋”を熱唱し、観客から賞賛を得ると、サイモンは“俺が作った曲なのに…”と嫉妬したといいます。そして解散後、ポール・サイモンは実況録音盤に同曲を収録していますが、率直に言って全く別モノです。“明日に架ける橋”は、ガーファンクルが歌ってこそです。それでも、この名曲は様々なアーティストによってカヴァーされ、ソウルの女王、アレサ・フランクリンが伝説のフィルモア・ウエストで歌った傑作もあります(写真左)。

アデル、21歳の快挙

 その後もスーパースター達がグラミー賞を獲得し、豊穣の歴史をつくってきました。イーグルスもホイットニー・ヒューストンもビリー・ジョエルもスティーヴィー・ワンダーも常連です。しかし、3冠王は「明日に架ける橋」以来、長きにわたり誰も達成していませんでした。そして、41年ぶりに3冠を達成したのが英国の女性シンガーソングライター・アデルです。

 2012年のグラミー賞で、最優秀レコードと最優秀楽曲が“ローリング・イン・ザ・ディープ”。最優秀アルバムが「21」(写真右上)。アデル21歳の快挙です。

 3冠王の凄さの一端が分かるのは1984年のグラミー賞でしょう。最優秀アルバムはマイケル・ジャクソンの「スリラー」、最優秀レコードは、やはりマイケルの“今夜はビート・イット”でしたが、最優秀楽曲はスティング作詞作曲、ポリスの“見つめていたい”でした。スーパースター達のハイレベルな競争ゆえ、ビートルズやエルビス・プレスリーすら獲得できませんでした。

 アデルの底知れぬ才能は、2009年に最優秀新人賞を獲得したデビュー盤「19」(写真右中央)に刻まれていました。作詞作曲能力の高さと、何より群を抜く歌唱力です。美声ではないものの、スモーキーでハスキーながら芯の強い声は、高音域で微妙にファルセットになるところが特徴です。

「21」発表後は、ジェームス・ボンドの映画「スカイフォール」の主題歌(写真右下)を担当。最新作が待ち遠しいところです。