ピケティ『21世紀の資本』が
どうにも腑に落ちない

 最近ベストセラーになっているトマ・ピケティの『21世紀の資本』のメッセージは、資本収益率が成長率よりも高いので、資本を持つ富める者はますます富み、資本を持たない者はますます貧しくなる。そのようにして出来上がる格差社会を資産課税によって是正してやる必要があるというものである。

 日本の場合も、国民所得に対する民間資本の割合は6倍にもなって、格差社会化が進んでいると指摘されている。しかしながら、日本の実態には、このピケティの指摘からはどうにも腑に落ちないものがある。

出所と時系列データ:http://piketty.pse.ens.fr/capital21c を参照

 まずは、上の2つのグラフをご覧いただきたい。図1は、ピケティの本からのもので、わが国の民間資本の対国民所得比が1990年に7倍になり、その後1993年までに6倍に低下し、以降ほぼ横ばいになっていることが示されている。これが格差を生む背景にあるのだとすれば、わが国のそれは1990年に諸外国の約2倍の水準に達した後、1993年にかけてやや解消し、その後ほぼ同水準で推移するうちにイタリアが超えていき、2010年にはフランスが近づいてきているということになる。

 それが実態だろうか。実は、この動きを内閣府が発表している日本の国富の推移(図2)と較べてみると、この動きの大きな部分が土地価格の変動(キャピタルゲイン)によっていることがわかる(注1)。土地の価格上昇は、資本収益率が成長率を上回った結果の集積としてもたらされるものではない。土地から将来期待される収益が上昇し、それを現在価値に割り戻したものとして価格が上昇するのである。そこには、資本収益率と成長率の格差は全く登場しない。

(注1)図2によれば、1990年に3500兆円だった国富は、同年の国民所得347兆円の約10倍だった。ピケティの推計による7倍との違いは、ピケティが主に用いた課税資料において固定資産税評価額の改訂が追い付かなかったことによるものであろう。

 ピケティは、当時の日本の状況についてバブルだったとして、その部分を除いても長期的トレンドとして民間資本の対国民所得比が1970年時点の3倍から2010年の6倍に上昇していることが明らかだとしている。しかしながら、長期トレンドにおける民間資本の増大も、そのかなりの部分は土地の値上がり(キャピタルゲイン)である。