2010年度予算の概算要求が出て、民主党政権の心配点が幾つか見えてきた。最大の懸念は、多くの大臣が所管する組織の惰性に飲み込まれそうになっていることだ。
政権交代に至った前回総選挙で、国民が最も期待した政策の筆頭は、どの世論調査を見ても「年金と社会保障」だった。こうした中、民主党マニフェストの「7割を一人で抱えている」と言われている「ミスター年金」こと長妻昭厚生労働大臣が「苦悩」しているようだ。
足を引っ張る身内の敵
『毎日新聞』(10月18日、朝刊)の記事によると、来年度予算の概算要求締切り日の10月15日に平野博文官房長官から「マニフェスト(政権公約)工程表の重要3項目以外は入れないでほしい。これは内閣の方針です」と電話があったという。「重要3項目」とは、子ども手当(半額)、年金記録問題対応、雇用保険拡充を指す。これによって、「診療報酬増額」「肝炎対策」「生活保護母子加算の復活」など民主党がマニフェストで約束した項目が予算額を計上しない「事項要求」になったという。
この記事が正しいとすると(一面トップの記事だから裏は取ってあるのだろうが)、大きな問題が二つある。
先ず、平野官房長官の言う「内閣の方針」の決定者は誰で、どのような手続きで決まったのか。鳩山首相の了承を得ているなら組織権限上はいいが、平野官房長官が何人かの閣僚と情報交換して決めたという経緯なら些か問題だ。民間会社でいうと、「社長室長」あるいは「経営企画室長」あたり(何れにしても社長に寄り沿う「経営茶坊主」)が、社長の威を借りて、社内に権力をふるうような構図だ。平野氏は、鳩山内閣の汚れ役的な役回りを引き受ける強面なのかもしれないが、彼が「官邸強化」と「官房長官の権限強化」をはき違えているようだと、内閣は前途多難だ。
また、この問題が鳩山首相の耳に入っているとしても、たとえばマニフェストにもあって、長妻厚労相が既に方針を明言した母子加算の復活のような項目が予算化されていないことは、政治的に不適切だ。企業で言うなら、社長が、最も重要な事業部門の意見を聞かずに、経営企画室の話だけを聞いて、来年の事業計画を決めているような状態だ。
しかも、事項要求について、藤井財務大臣は「ほとんど実現できないだろう」と語った。かつて経験した大蔵官僚時代に覚えた「断固査定」の気分なのかも知れないが、マニフェストの重要項目が多数対象に入っていて国民の関心が高い内容について、「実現できないだろう」と言い放つ政治的なセンスと状況理解力の欠如にはあきれる。