「ビッグデータ」や「アナリティクス」という概念を用いた分析が人事の様々な局面で活用されはじめている。あるサービス業A社では、ハイパフォーマーの退職分析を行い、その最大の要因は「上司の能力」であると特定することを可能にした。本稿ではその事例の一部を紹介したいと思う。
サービス業A社での
「ハイパフォーマーの退職リスク分析」
人事におけるデータ分析の領域で、近年注目を集めている手法の1つに「退職リスク分析」と呼ばれるものがある。退職リスク分析とは、簡単に言えば、従業員にまつわるさまざまなデータを集約し、退職する可能性が高い従業員を早期に見極め、優秀人材の離職を防止し、退職コストを低減するための手法で、欧米の先進企業を中心にここ数年で急速にその活用が進みつつある。
実際には、どういった手順によって退職リスクというあいまいな概念を定量化していくのであろうか。あるサービス業での分析例について紹介する。
A社は、社員数千名のサービス業であり、ここ数年にわたり事業を大きく拡大してきていた。しかし労働市場での人材流動化、社内での年功化などの影響により、若手の優秀人材の退職率は近年悪化の一途をたどっていた。
結果としてA社の退職率は同業他社を上回る年間15%程度に達し、特に会社の将来を担う20~30代の優秀人材が競合に移るケースが後を絶たないことに、経営層は頭を悩ませていた。
もちろん人事の担当者もただ手をこまねいていたわけではなく、退職者へのインタビューを中心に情報収集を行っていた。しかし、報酬面での不満、上司に対する不満、担当する仕事に関する不満など、様々な退職要因の仮説が浮かぶものの、退職者インタビューの正確性に対する疑問の声もあがり、何から手を付けるべきなのか判断のつかない状況に陥っていた。
こうした状況を打開するべく、A社では退職する本人へのインタビューによる分析に頼るだけでなく、採用時の背景から職場でのパフォーマンス、上司の質など、退職に至る背景となっている様々な人材マネジメント上の要素を分析した。そして、より客観的かつ広範な観点から退職をもたらす真の要因は何かを特定し、対策を講じていくことを検討することになった。
では、具体的にどういった手順で退職要因の特定を実現することができたのか。検討における流れにそって解説を進めたいと思う。