売主の経営危機や在庫の安値放出など、先行き不透明な新築マンション市場。だが、じつはより深刻なもう一つのマンション問題が不動産・建設業界でささやかれている。全国に膨大に残っている「要建て替えマンション問題」だ。

 東京カンテイの調査(2005年末)によると、1981年以前の旧耐震基準で立てられた全国のマンション戸数は、現在146万1056戸ある。先の阪神・淡路大震災で倒壊したマンションの多くが旧耐震だったこともあり、早急な耐震補強や建て替えが求められている。

 ところが、このうち建て替えが完了したものは、国土交通省の調べによると2008年10月時点でたったの129件。まだ、膨大な数の老朽化マンションが全国に手付かずのまま残っているのである。

 「最初に管理組合で建て替えが協議されてから、実際に着工できるまで早くとも10年はかかる」(マンション業界関係者)ほど、マンション建て替えには困難が伴う。というのも、多くのマンションで、修繕積立金で行なう修繕計画は外壁の塗装などの日常的な補修が前提。修繕積立金に将来的な建て替え費用までが織り込まれた物件は皆無で、その結果、建て替えには1戸あたり数千万円の追加負担がかかることになる。

 費用負担を回避するために、高層化や隣接地を新たに買い増したりして保留床を設け、新たに分譲して建て替え費用に充てるのが一般的だが、販売が計画通りに進まなければ負担は住民に回ってくる。

 それだけに、住民内の合意形成もなかなか進みにくい。2002年には、区分所者の5分の4以上の賛成があれば建替えができるとした改正区分所有法が成立したが、それでも利害関係や各住民の思惑が錯綜するだけに、なかなか、建て替え計画も円滑に進まない。特に、高度成長期に分譲された団地などのように、住民の高齢化が進んだり、管理組合が機能していない古いマンションでは、建て替え問題は実質”野ざらし”にされているのが現状なのである。

 こうした現状に、国土交通省も手を拱いている。というのも「マンションの区分所有分はあくまでも個人の所有物で、そこに国が直接補助を行なうことにはいろいろと問題がある。また建て替えや改修を強制することもできない。あくまでも住民が主体となり、耐震診断や改修、建て替えをするよう、啓蒙活動をするしかない」(マンション政策室・山崎房長室長)と考えているからだ。マンション建て替えに対して国や地方自治体が現在行なっている補助事業も、対象はあくまでも共用施設に対してのみ。総事業費に換算するとうち10~20%程度にとどまるという。

 「マンションは区分所有権を持つ住民の個人財産の集合体であると同時に、建物全体でみれば社会財であり、なんらかの公的な対策が必要」と中山登志朗・東京カンテイ上席主任研究員は言う。現に、阪神・淡路大震災で、倒壊したマンションが交通を遮断したり、周囲の歩行者や住民を死傷させたり、甚大な被害を及ぼした事例は数多くあった。

 もちろん経済的な損失も大きい。東京カンテイの試算によると、仮に阪神・淡路大震災と同レベルの地震が首都圏で起こった場合、マンションの機能的損失額(被災したマンションを被災以前の状態に復旧させるための費用)は首都圏全体でなんと1兆2500億円にのぼる。

 大地震はいつ起こるともわからない。このあまりにも不安な状況が、このまま野ざらしにされたままでよいはずはないだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)