「(脱水すると)蛇口をひねった時みたいに水がどんどん出ますよ。木はやっぱり水を多く含んでいるので」(阿部さん)

 言ってみれば巨大な鰹節削り器のようだ。木が前後に動き、紙のように薄く削られた木が出てくる。詳しくは動画を見ればわかるがはっきり言って怖い。怖くないですか、と息子さんに尋ねたら「最初は怖かったのですが、慣れました(笑)」と軽く答えられた。

「逆目にならないように削っていきます。木の目は経木の品質に関わってきますし、厚さはやはり感覚なのでそこは神経を使います」

 四角い塊を削るのだが、そこも簡単ではない。自然の木には表と裏がある。日光のあたっている面は成長が早く木の目が大きくなるが、影になる裏側は成長が遅いため目が細かくなる。当然、固さにも違いが出てくるので、均質に削っていくのには注意が必要だ。

「削られたものを今度、洗濯機にかけて水分を除去します。遠心分離機にかけると水が驚くほど出てきますよ。そうして脱水したものを今度は二階で乾燥させます」

 建物の二階では束ねられた経木が風に揺れていた。経木の無垢な白さが光を受け、きれいな風景をつくっている。自然乾燥なので、梅雨時の湿気は経木の敵だそう。乾燥したものを今度は挟んで平らにする。一枚の経木が出来上がるまでには手間と時間がかかっている。

経木は風で乾燥させる。環境も品質の高さを守る要素の一つ

「私が子どもの時はアルミホイルが出はじめた頃でね。遠足なんかに行く時にうちだけおにぎりが経木に包んであるのが嫌でしょうがなかった(笑)。今はまったくの逆ですよね。温かみがあっていい、という話になるし、なにより経木に包むと食べるときに海苔が手につかないんですよ」

 経木はお弁当にも適している。底に敷けば汁気を吸いとり、おにぎりを包めば調湿作用があるのでご飯もおひつに入れたように美味しくなる。いつものラップやアルミホイルではなくて、経木でおにぎりを包んでみよう。包むという行為が美しいのはものだけではなく心まで込められているからだ。そこには単なるノスタルジーではなく、日本人が失ってはいけないなにかが含まれている。