「どうして何度言っても伝わらないんだろう……」
チームの目標や理念を伝え、メンバーに動いてもらうのはリーダーにとって最も重要なことです。しかし、何度も同じことを伝えるのは、リーダーにとっても、聞くメンバーにとっても、しんどいもの。ところが、『ぼくは「技術」で人を動かす』によると、「言葉」よりも効く「伝え方」があるといいます。いったいどんなワザなのでしょうか?
言葉は大切なツールですが、完璧かつ唯一のツールではありません。
チームリーダーとして知っておきたい有効な伝え方のツールはいくつかありますが、中でも重要で手っ取り早いのは、メンバーにいろいろ体感してもらうことです。
「企業理念は何百回、何千回と、飽きるぐらい同じことを言うのが大事だ」とおっしゃる経営者は多く、私もそのとおりだと思います。しかし、私は非常に飽きっぽく、正直なところ、同じことを言うのが得意ではありません。
「メンバーにビジョンを共有してもらうのは難しいよなあ」
オイシックスを立ち上げた当時、私もそう悩んでいました。
誰もやったことがない「食品eコマース」というビジネスを支える理念を、「わがこと」としてもらうのは、苦労の連続でした。何せ、私自身も起業当時は26歳の独身男性。料理もせず、有機野菜へのこだわりどころか、野菜がどのようにつくられるのかすら、わかっていませんでした。まさに机上で考えたことから事業計画をつくって始めたビジネスだったのです。
そんな私がオイシックスの理念を体感したのは、立ち上げ当時に、農家を1軒1軒回り、じっくりと話を聞き、泥にまみれて収穫を手伝ってからでした。
また、リサーチのために子どもがいる30代の主婦のお宅を何十軒も回ってヒアリングをして、どれだけ多くの方が食に対する不安や不便を抱えながら生活を送っているのかを、改めて自分の身で知ったことで、さらに理念を体感したのでした。
言葉で聞いたことでなく体感したことで未来のビジョンがクリアになる。この私自身の体験をヒントに、チームをつくる際、言葉だけではなくメンバーが「体感」できる機会をたくさんつくることにしました。
ひとつは、「つくる」シーンの体感。
たとえばオイシックスでは、「ブランド体感会」と名づけたイベントを行っています。文字通り、オイシックスのブランドを自分たちで体感するというもので、実際にバスを何台も借りて、「産地」に行きます。
農家に行って農作業をする、漁船に乗って漁をする、工場に行って加工の手伝いをする……と体を使って体験します。農作業体験といっても、ちょっと収穫をさせてもらうというような体験ツアー的なものではなく、雑草とりやビニールハウス撤収など地味な作業を含んだ実際に生産者がやられている仕事を、かなりの長時間体験させてもらいます。こうした機会を、年間4回ほど用意して、全社員が参加できるようにしています。
そしてもう1つが、「使う」シーンの体感です。
全社員が集まるミーティングに、実際にお客さまを呼んでお客さまによるパネルディスカッションをしたり、お客さまの家に、たとえば新入社員を連れていって「オイシックスのここが不便」「あのトマトには感動した」など、直接お話を聞いたりします。
生産者やお客さまとじかにふれあうことで、メンバー1人ひとりが理念とビジョンを自然に体感すれば、言葉で伝えるだけのときよりもビジョンの共有が進みます。さらに、それはモチベーションに変わります。
「もっとこういうサービスを届けてあげたい」
「生産者のこの思いをもっとちゃんとお客さまに伝えたい」
「お客さまが困っているこの点を何とかしたい」
それぞれの心にビジョンと主体性が生まれるのです。
頭でわからないことも、体で感じればわかることがあります。体感したことは深くしみ込むため、うまくいかないときに思い浮かべてがんばることもできます。
「千葉県の農家の田中さんの奥さんに『主人の歴史が刻まれた野菜を届けてください』と言われたな」と思えば、もうダメだというときに、最後のひと踏ん張りができるのです。
お客さまや取引先との接点を通して理念を体感してもらい、メンバーのモチベーションを高める。この方法は非常に有効です。そのうえチームリーダーとしては、理念をただ唱えつづけるよりも大きな効果が得られ、教育のアウトソーシングにもなります。
リーダーが言葉を尽くしてビジョンを伝えることに加え、メンバー自身に現場に足を運んで体感してもらう。この方法は、かなり有効です。
{新リーダー}のためのレシピ
理念は「体感」で伝える