そもそも、日銀は出口から出れるのか?

――では、日銀はその「出口から出る」ことを達成できるのでしょうか? できるとしたら、どのような戦略をとればよいとお考えですか?

 難しいと言わざるを得ません。景気が良いと言われている米国ですら出口から出られないで苦しんでいるからです。米国では、このような状況がイーグルスの名曲の「ホテル・カリフォルニア」の“チェックアウトはいつでもどうぞ、でもここから出ていくことはできませんよ”という歌詞に例えられています。テーパリング(量的金融緩和の縮小)でチェックアウトはしたのだけれど、正常化へ向けての“出口”の利上げにはなかなか踏み込めない。なぜなら、利上げしたら株価を大きく下げてしまうかもしれないからです。共和党の圧力さえなければ利上げしたくないというのがイエレン議長の本音でしょう。市場コンセンサスと異なりますが、私はFRBは利上げはできないと考えています。

松村 私も同意ですね。FRBは、利上げして市場を混乱させた結果、QE(量的緩和)に逆戻りさせられるのをびびっているのでしょう。けれど、逆にここで正常化に少しでも踏み込めなければ、永遠に正常化できないのではないかと市場に侮られる。さらに、株価がどんどんバブル化し、最後には大きな危機を生みかねないということもイエレン議長は理解しているはずです。

 そのジレンマに苦しんでいるように思えますね。

松村 ええ。最近の米国株は、経済指標が良く好景気だと、かえって売られる傾向があります。それは利上げの可能性が高まるからなのですが、逆に言えば、いかに金融緩和に依存した相場となっているかを示しています。「ホテル・カリフォルニア」は麻薬中毒のことを歌っているという説がありますが、資産価格が金融緩和によって吊り上げられてしまった結果、金融緩和という麻薬の中毒になってしまっていると言えるでしょう。

 なるほど、麻薬中毒ですか。刺激的な表現ですが、その通りかもしれませんね。

松村 しかも、日本は“出口”の見えない、米国よりもはるかにアグレッシブな緩和政策を行なっているわけですから、深刻な麻薬中毒患者への道を歩んでいるわけです。4月16日の「フィナンシャル・タイムズ(アジア版)」によれば、中国の李克強首相にまで「量的緩和が行われているうちは、すべてのプレーヤーが大きな海の中で浮かんでいられるかもしれない。しかし、量的緩和が取りやめられた時に何がおきるのか、現時点で予測することは難しい」と、量的緩和政策の危険性を指摘されてしまいました。株価が上がって成果が出たと喜ぶのは安易かつ短視眼的な議論である。これは、世界の有識者の共通の見解と言ってよいかもしれません。