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おもてなしで飯が食えるか?
【最終回】 2015年5月27日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

「おもてなし」はビジネスとして生き残れるのか?

 ウェブのサービスの多くは、いったん開発してしまえば、あとは追加的な手間をほとんど投じずに、カスタマイズしたサービスを提供できています。従業員を育てたり、店を増やしたりする必要もないので、マーケティングがうまく進めばいっきにスケールアップできます。しかも蓄積したデータを分析することで、判断の精度をどんどん上げていきます。こうしてITによって自動化されたおもてなしは、収益化や規模化の壁をいつのまにか越えてしまっているのです。以前は画面のどこをクリックしていいかわからなかったり、画面表示に時間がかかってイライラさせられたり、ネット上のサービスの限界を感じる場面が少なからずあったかもしれません。が、最近は多くの開発者がUX(ユーザー・エクスペリエンス)を重視してサービス設計しており、ユーザーの満足度も格段に高まりました。

 非定型な判断が求められるおもてなしを、本当にテクノロジーが代替できるのか?まだ疑っている人も多いでしょう。確かに、顧客の表情・身振りからその人の気分を察するとか、顧客が従業員との当意即妙な会話を楽しむとかいった点では、テクノロジーによる代替はまだ困難です。しかし、大勢の顧客の名前を覚えるとか、顧客属性や利用履歴、その他の制約条件(天気予報、交通渋滞情報など)を加味して、お客様ごとに適切なお薦めをするといった業務なら、むしろ人間よりもITの方が得意です。こうして「人にしかできない判断」と思われていた部分の多くを、これからテクノロジーが代替していくことでしょう。世界中の名だたる金融機関や病院、旅行会社などが相次いで、米IBMの認知型コンピューター「ワトソン」を自社サービスで活用し始めているのも、その兆候の1つ。日本でもメガバンクが、顧客からの曖昧な質問が大量に寄せられるコールセンターの応対業務に、このワトソンを採用したことが最近話題になりました(※2)

 機械やITによる顧客対応を「おもてなし」と呼ぶか否かについては、見解が分かれるところかもしれません。しかし好むと好まざるとにかかわらず、「おもてなし」の一定部分、特に正確さやスピーディな対応が求められる部分で、人手が機械やITに置き換わっていくでしょう。そして、おもてなしに伴う品質やコストの問題をテクノロジーが解決し、これまではベテラン従業員しか提供できなかった「おもてなし」サービスをより多くの人が日常的に享受できる姿は、歓迎すべき将来像だと私は思っています。

※2 「ついに人工知能が銀行員に『内定』 IBMワトソン君」(日本経済新聞2015年3月20日朝刊)

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

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