難解な研修ばかりを好む人事部
実は数百人相手でも講師は1人で十分

 話法のロールプレイングや、事例のディスカッションなどが主体の、演習形式の社員向けトレーニングを導入している企業は多い。講師として実施準備をしていると、クライアントである企業の人事部門や教育部門の担当者から必ず聞かれる質問は、「何人規模で実施することが適当でしょうか」というものだ。

複雑怪奇な研修を行って自己満足にひたる人事部は数多い。「こうでなければ」との思い込みが、効果の上がる研修を妨げているのだ Photo:imtmphoto-Fotolia.com

 私は、その質問に、たいてい「当初は20人程度で実施することで、効果を極大化できると思います。しかし、参加者が慣れてきますと、何人でも実施できますよ」と回答する。

 すると、必ず怪訝な表情をされる。「え、100人でも、200人でも実施できるとおっしゃるのですか?」と問われるのだ。「はい、そのとおりです。150人でも、500人でも、実施いたしますよ」というやりとりを、たいてい繰り返す。

 そのような大人数での演習など、「多くのトレーナーが必要となり効率が悪い」、「メイントレーナーが統制できるはずがない」、「難易度の高いレベルのトレーニングができない」、「きめ細かな個別指導ができるはずがない」など、人事部門、教育部門の担当者からは、異論、反論が山ほど上がる。

 実は、こうした異論、反論が上がること自体、企業内トレーニングが役立っていると思われず、行き詰まり、閉塞的な状況に陥っている証であると思わざるを得ない。

 数百人規模の演習では、多くのトレーナーが必要となり効率が悪いと思われる方が多いかもしれないが、実は、1人のトレーナーで実施することは可能だ。保険会社時代は、毎月入社する数十人から最大150人の新入社員へ、基本的に私1人で演習を進行した。

 ある大学の第1学年の学生約500人に演習させていただいたこともある。最近は、就職活動中の学生の方々を対象としたWeb会社説明会で、Webでログインしている約200人の方々へライブカメラで演習させていただいたこともある。1人で数百人の演習が実施できれば、その点だけからみれば、効率は高いと言えるのではないか。