企業の利益が増大し、株価が上昇している。政府は利益の一部を賃金に還元させるとして、企業の賃上げに介入した。その結果、今年の春闘はベースアップが続いた。他方で、有効求人倍率が上昇している。これらは、雇用情勢の好転を示すものと言われることが多い。以下では、雇用に関する事態は、実は悪化していることを示す。

春闘での賃上げ率は高かったが
現金給与総額はほとんど伸びていない

 毎月勤労統計調査によると、2015年3月の現金給与総額の前年比は、調査産業計で0.0%だ(図表1参照)。

 業種別に見ると、医療、福祉のみが4.1%増と高い伸び率を示したが、他産業の伸びは押しなべて低い。製造業は0.1%増、卸売業、小売業はマイナス3.2%、不動産・物品賃貸業はマイナス3.4%などである。

 以上の状況は、春闘での賃上げ率がかなり高い値だったのと比べて、大分差がある。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、民間主要企業春闘賃上げ率は、14年が1.8%、15年が2.19%だ。

 このような差が生じるのは、春闘が主に大企業の正社員にかかわるものだからだ。実際には大企業は全体の一部でしかなく、また非正規社員の比率が増大しているために、経済全体の賃上げ率との乖離が生じているのである。

 乖離が生じるいま一つの重要な理由は、雇用者増加率の高い医療、福祉は、賃金水準が26万2709円と、調査産業計の27万4536円よりかなり低いことだ。賃金の低い部門が成長し、賃金が高い製造業の雇用が伸びないために、賃金全体が伸びないのである。