派遣法改正案はアベノミクスが目指す消費拡大と矛盾する「改悪」だPhoto:hanack-Fotolia.com

 アベノミクスを諦めたのだろうか。安全保障法制と並び今国会の法案で、安倍政権の性格がむき出しになっているのが、労働法制の規制緩和だ。派遣労働を固定化する派遣労働法改正、残業代ゼロ、解雇の金銭解決。実施されれば痛い目に合うのは立場の弱い労働者、それは「家計」でもある。首相が国民に約束したのは景気回復ではなかったか。「個人消費の拡大」が不可欠と分かったから春闘で賃上げを求めた。それなのに家計を委縮させ、将来不安をあおる労働政策を導入する。自己矛盾気味な政策は、首相に取り入る人脈に病根がありそうだ。

景気回復最後の1ピース
「個人消費」が伸び悩むわけ

 景気は回復に向かいつつある、と言われながらも力強さが感じられない。個人消費が奮わないからだ。GDPの70%近くを占める個人消費が伸びなければ好循環は始まらない。振るわない理由ははっきりしている。所得が伸びない。家計の購買力が足らないからだ。

 企業は好決算に沸いている。3月期決算は上場企業で純利益が前期比3・5%増、約25兆円にのぼり二年連続で史上最高益を更新した。株式時価総額は60兆円に達し、バブル絶頂期を上回る盛況ぶりだ。

 儲かった理由は様々だが、リストラ効果を抜きにして好決算は語れない。長く続いた不況で企業は人減らしと賃金の圧縮に邁進した。その中で正規社員が担うべき仕事を派遣社員など身分の不安定な労働力に切り替えた。労働分配率は年々下がり、膨らんだ利益は企業に溜まっていった。財務省によると企業の内部留保は2012年で304兆円。決算や株価で見る限り、日本経済は「絶好調」である。それでも景気は回復しない。「企業栄えて家計衰退」が個人消費を冷やし、国力を萎えさせているのだ。

 リストラは企業業績を好転させた。個別の企業家の判断は正しくても、全体で見れば日本経済を委縮させる。経済学で「合成の誤謬」と呼ばれる現象だ。利潤動機に任せるだけでは解決にほど遠い。政治の出番はここにある。

 企業に偏り過ぎた「儲けの構造」を労働側に再分配しない限り内需は盛り上がらない。2兆円の利益を上げたトヨタ自動車も利益は海外で稼ぎ、国内で儲かっていない。国内市場は期待できないから設備投資は海外に。日本でも大企業は多国籍化し、商売に国境はない。だが政府は国内に責任を持つ。国内でカネが回らなければアベノミクスは不発に終わる。

 安倍首相が春闘で「賃上げにご協力を」と財界にお願いしたのは方向として正しい。その甲斐あって大企業はベースアップに踏み切り、4月の実質賃金は前年比0・1%の増となった。微々たる伸びだが23ヵ月連続でマイナスだった実質賃金が2年ぶりにプラスに転じた。画期的なことである。