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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

バラック・オバマを大統領に選んだアメリカ民主主義の真骨頂

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第12回】 2008年11月7日
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 オバマ候補の大統領としての資質に問題がないとしても、状況が味方したことも幸運だった。金融危機が追い風になった。銀行の相次ぐ倒産で自分の預金も危なくなった。住宅価格は大きく下がった。不況が本格化すれば、いつレイオフされて無収入になるかもしれない。自分の健康を守ってくれる医療保険料は馬鹿高い。一般市民の生活への不安は今までになく高まっている。オバマ候補は彼らにとって強い味方と映ったのである。

草の根献金で1ヵ月150億円
ボランティアも数百万人に

 オバマ候補の選挙戦術も革新的なものだった。ウェブサイトを使って、草の根の選挙運動を展開した。全米各地に選挙事務所を作り、そこにボランティアを登録させて電話で支持の輪を広げ、ウェブ2.0の技術を使った最新のコミュニケーションも導入した。ボランティアが協力できる時間帯を2時間ごとに設定し、極力多くの人が負担を分かち合えるようにした。マケイン候補も同様なことをやったが、きめの細かさではオバマ候補に劣った。

 オバマ候補は政治献金についても新しいやり方を創造した。従来の選挙で候補者は、企業や団体からの大口の献金に頼って選挙戦を展開してきた。オバマ候補はウェブを通じて、彼の政治理念に賛同する人に小口の献金を呼びかけることを徹底した。5ドル、10ドルといった小口の献金でも、塵も積もれば億単位の金になる。9月1ヵ月間にオバマが集めた献金は150億円に上った。マケイン候補も同じことをやったが、集まった金額には大きな差がでた。

 オバマ候補はこうして集めた資金を使って10月下旬に主要テレビ局の全米ネットワークに30分間のコマーシャルを打ち、自分の考えを徹底的に浸透させた。また共和党の強い地盤であるオハイオ州、ペンシルバニア州、フロリダ州で地元向けのテレビ広告を打ち、支持層を拡大していった。

 オバマ候補支持のボランティアは全米では数百万人に上ったと言われる。激戦区フロリダ州で10月に動員されたボランティアの数だけでも23万人に達している。資金力とボランティア動員数で劣るマケイン候補は、本来共和党が地盤であるはずの各州で徐々に劣勢に立たされていった。

 オバマ候補成功のもうひとつの戦術は、演説のたびに投票所に行くことを呼びかけたことである。「アメリカは変われる(Can Change)。それには皆が投票に行かなければならない」と呼びかけた。これまで選挙に無関心であった層の多くが今回は投票に行った。従来の政治無関心層の多くは自分に投票するはずとの確信をオバマ候補は持っていた。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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