今回の労働者派遣法改正案では、与野党の対決が激化し、採決が見送られるなど混乱を極めた。元々、派遣法自体が矛盾した目標を抱えていることを直視せず、改正案の是非を論じても、議論がすれ違うだけである。派遣で働いている大部分の労働者の利益を基準とし、派遣という働き方の役割と、望ましい派遣法の姿を示した上で、今回の改正法の評価を行いたい。
派遣は抑制すべき
「悪い働き方」なのか
「派遣は労働者の雇用主と使用者とが異なる間接雇用で、労働者保護に欠ける」といわれる。これは派遣の働き方自体が「悪い働き方」であり、派遣労働者の増加をもたらす、あらゆる派遣法改正に反対という論理となる。
しかし、雇用者のうちで、派遣社員の比率はわずか2%(労働力調査、2014年)で、それ以外はすべて直接雇用である。それにもかかわらず、あえて派遣の働き方を選ぶ労働者の職業選択の自由を制限するには、明確な根拠が必要となる。
派遣労働は、不況期に契約を打ち切られ易く、雇用が不安定で良くないといわれる。しかし、それは正社員の雇用を守るための緩衝弁の役割だからだ。これは正社員を解雇する前に、非正社員の雇い止めを求める裁判所の判例にも反映されている。
仮に、派遣が禁止されれば、別の形態の非正社員がその身代わりになる。不況期の雇用調整は、適切な金銭補償で行うことが先進国共通のルールである。しかし日本では、不況期にも雇用が守られる正社員と、その犠牲になる非正社員という「身分格差」が存在する。公平な雇用調整ルールを作らずに、派遣を含む非正社員を無期雇用化すれば、全員の雇用が安定化するというのは夢物語である。
1990年代に、ILO(国際労働機関)が派遣の自由化とその労働者の保護を定めた目的は、欧州の高失業の防止にあった。派遣の働き方の大きな利点は、直接雇用だけで対応できない労働需給のミスマッチを改善し、雇用の総量を増やすことにある。
派遣社員のうち、正社員として働きたい者と派遣のままで働きたい者の比率は、共に43%である(厚生労働省「派遣労働者実態調査、2012年」)。失業のリスクに怯える非正社員にとっては、多様な雇用機会は多いほど良い。「派遣を規制すれば、より条件の良い直接雇用機会が生まれる筈だから、派遣労働者の利益にもなる」というのは、雇用が保障されている正社員の論理に過ぎない。