(1)は“占中”にもあるように、実際に発生したが、北京政府に妥協を迫らせるような局面には至らなかった。(2)は昨今の米国や英国の政府が公式に主張しているように、一般論として香港市民が表現の自由や真の意味での普通選挙といった権利を有する“べき”だとは言っているものの、中国政府と話をする際は「香港情勢は中国の内政問題であり、我々は干渉する立場にない」というスタンスを貫いている。仮に“占中”の際に中国人民解放軍が出動し、香港市民に向けて発砲するような事態に陥れば、国際社会は中国に対して包囲網的に制裁を加えるであろうが、そのような局面を恐れる中国政府は軍を出動させたりはしないだろうし、実際にしなかった。

 (3)に関しては、現段階では判断がつかないが、中国の歴史を振り返れば、政治的動乱は決して稀な事態ではなく、いつ何が起こっても不思議ではない。

 中国共産党指導部の戦略からすれば、今回の法案が香港立法会によって可決され、香港の民主化が一歩前進し、そんなステップをお膳立てした自らが政治レベルにおける改革や普通選挙を重んじている、というメッセージを国際社会、特に西側諸国に対して発したかったであろう。だからこそ、否決という結果を受けて、反対派がすべての歴史的責任を背負うべきだという情緒的な反応を示したのである。

 国務院で香港問題を担当する幹部は、6月18日の結果を受けて私に次のように語った。

「確かに否決は我が党にとって痛手となる。香港の政治情勢は引き続き緊張したものになるだろう。一方で、根本的に言って、我が党が香港の普通選挙を急がなければならないさしたる理由がないことも確かだ。この結果は事前に予測できたものだ」

単純に良し悪しでは判断できないが
北京・香港間の政治情勢は一層複雑に

 3つの結論で本稿を閉じよう。

 まず、今回の否決という結果に関しては、前述したように、単純に良し悪しでは判断できない。ただ、これを境に、北京・香港間の政治情勢は一層複雑になり、不透明感は増大すると言える。

 次に、今回の結果を受けて、“占中”に代表されるような大規模な抗議デモは一旦落ち着くだろうが、“民主派”も北京に10を受け入れてもらうための新たな方策を考えるであろうし、北京・香港間の政治的な駆け引きが香港経済・社会の動向にどのような構造的影響を与えていくのかを、注視していかなければならない。昨年の8月31日以降、香港の地政学リスクは確実に高まっている。

 最後に、やはり香港民主化の鍵を握っているのは、北京にある中国共産党の総本山であろう。北京を巡る政治情勢がどう動くかによって、香港の政治情勢も相当程度の影響を受けるに違いない。政治改革の可能性という観点からは、習近平総書記が進める改革の行方を追っていく必要があり、政治動乱の可能性という観点からは、習近平総書記による政治がもたらす影の部分や不安要素を見ていく必要がある。