今回はまず転職に伴う年収の問題を考えてみよう。結論から言うと、年収にこだわる転職はまず失敗する。
自分や自分の家族が生活するのに本当はいくら必要なのかをわからずに、今もらっている給与を下げたくないと、年収に固執する転職は、ほぼ失敗するということだ。
「お金は魔物」――そのことを念頭に置いて、今回の話を読んでほしい。
給与が高ければ当然期待値も高い
その期待に応えられるか?
転職で頻繁に聞くのが、「今の年収をキープできればそれでいいです」というセリフだ。一見、謙虚で分をわきまえているような発言だが、私に言わせれば大甘だ。
給与を下げたくないという気持ちはよくわかるのだが、規模の小さな会社に転職すれば、同じ仕事ならば給与は下がるのが通例だ。同じ業界への転職ならば、今よりも高いパフォーマンスを発揮しなければ、間違いなく給与は下がる。
「ならば、高いパフォーマンスを発揮すればいい」と思うかもしれないが、それができるのであれば、今の会社で冷遇されているはずがない。きついことを言うようだが、冷静に自分を見つめてほしい。今の自分の処遇、会社からの期待は本当に不当なものなのか。実力・実績は本当に不当に低い評価なのか。よく考えてほしい。
よくよく考えてみれば、多くの場合、自分が会社からの期待に応えられていないとわかるはずだ。だとしたら、次の同業他社でどうして今まで以上のパフォーマンスが発揮できるというのか。
もちろん例外はある。同業他社への転職で昇給する例もなくはない。かつてサムスンが液晶技術者を大量にスカウトしたように、その会社にない技術やノウハウを持っている場合がそれだ。海外の新興メーカーであれば、これからもそうしたこともあるだろう。しかし、そういった“時間差型高給転職”が、長い目で見ても安全で得策かと考えると、何とも微妙な話だ。ブレインピック(知識を吐き出す)されて放り出される例が後を絶たない。3年契約が1年半で契約打ち切りというのはよく聞く話だ。
では業界をずらせば年収は間違いなく上がるかと言えば、それもNOだ。むしろ、当初は給与が落ちるケースの方が多い。会社の規模が小さくなる場合も多いだろうし、その業界での実績もないわけだから、高い年収を期待するのは難しい。
もちろん、巧みな交渉術を駆使して自分を売り込み、高い年収を最初から得ることも可能ではある。ところが、これが実に危険なのだ。