顧客情報漏えい事件の影響で、最終赤字に陥ったベネッセ。主力の進研ゼミはデジタル教材の融合など多角的な再構築を図る。一方、中国展開にも意欲を燃やす。(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

 広々とした空間に学習机や教材がずらりと並ぶその店では、学校帰りの高校生を対象に、スタッフが勉強法についてアドバイスをしていた。そして視線を移すと、その先には小さな子ども連れの母親が集まり、育児セミナーが開催されていた。

 これは、ベネッセホールディングスが展開する「エリアベネッセ」。子ども・親を問わず、育児や勉強、進路など、さまざまな対面相談やセミナーを行っているのだ。費用は無料。「学びプランナー」と呼ばれる専門スタッフに、誰でも気軽に相談できる仕組みだ。

 ベネッセは現在、こうしたエリアベネッセを全国140カ所で展開。ショッピングモールなどでイベントも開催している。

 狙いは顧客接点の拡大だ。小学・中学・高校生向け通信講座「進研ゼミ」と幼児向け「こどもちゃれんじ」ではこれまで、会員獲得の大半をダイレクトメール(DM)による営業活動で行ってきた。

 ところが昨年7月に起きた顧客情報の大量漏えい事件の影響で、年間300億円を投じていたDMの大幅縮小を余儀なくされる。代わりに対面型店舗や電話での無料相談を受けることで、自社の教材を営業する機会を設けているのだ。

「進研ゼミへの依存体質から、早く脱却しなければいけない」

 昨年6月にトップに就任した原田泳幸会長兼社長は、危機感を募らせている。2014年度の業績は、顧客へのおわび費用など計306億円の特別損失が響き、上場以来初となる最終赤字に陥った。

 本業のもうけを示す営業利益の減少も深刻だ。進研ゼミ事業はグループ売上高の3割、営業利益の6割を占める屋台骨だったが、この1年間で会員数は25%も減少。14年度のグループ営業利益に占める進研ゼミの割合は47.7%に低下した。

 今年度はさらに厳しく、グループ営業利益は14年度から半減して135億円に落ち込む見通し。その中で進研ゼミの割合は21.5%にまで低下する見込みだ。

 浮上のきっかけを探る原田氏が推し進めるのが、「進研ゼミの次世代モデル」を構築すること。進研ゼミ依存からの脱却といっても、ただ単に事業を縮小するわけではなく、従来のビジネスモデルを転換しようというわけだ。

 そのため営業手法も「締め切り迫る」といった顧客を煽るような内容のDMで、会員を新規に大量獲得するのではなく、コンサルティング型のマーケティング手法で会員の継続率向上にも力を注ぐ。