日立製作所やパナソニックなどで人事コンサルタントをしている藤田聰氏によると、学歴が高い新入社員ほど軽視しがちな「悪習」があるという。ときにはその「悪習」のおかげでメンタルをやられる人もいるようだ。詳細を聞いた。
「対話不足」が原因で
上司に尻拭いをさせた新人
新入社員が研修を終えて配属が決まるころ、「学歴が高い奴に限って信じられないようなミスをする」というような話をクライアントから聞くことがとても多い。
こんな内容が典型だ。ある大手IT企業の営業部で、課長代理の工藤さん(仮名)は、国立大学出身の新人、中田さん(仮名)に見積書の作成を教えていた時のことだ。
まず工藤さんは、自ら見積書を作成して見せ、順を追って説明した。部下の中田さんは熱心にメモをとっていたので、「次は1人でやらせてみよう」と思い、別の新規客から問い合わせがあったときに作らせてみた。
見積もり期限は1週間後。「とりあえず1人で作ってみて」と、あえて手伝わなかった。2、3日経っても報告が来ないので非常に心配だったが、1から10まで指示していては彼のためにならないと辛抱強く待った。期日前日になってやっと「完成したから見てほしい」と相談にきたが、中田さんの作った見積書は、規模が10分の1の案件を参考に作られていた。スケジュールも予算もすべて的外れで、一から作り直す必要があった。何としても期限に間に合わせるよう、結局その日は工藤さんが深夜まで残業して作ることになってしまった。
なぜこのような事態が起きてしまったのか。原因をひとことで言うと「対話不足」だ。上司に仕事を依頼された時点で、中田さんは必ず仕事内容のイメージ合わせをしなければならなかった。このケースで言えば、作業の確認(見本として見せてくれた見積書と今回のケースでの相違点の確認、仕事の手順)と作成スケジュール感(いつ中間報告をいれるか)を最初にすべきだった。
上司が部下に仕事を依頼する際、必ず「こういう風に仕事をしてほしい」という期待イメージがある。これに沿わない限りは、どんなにクオリティの高い仕事をしてもまったく評価されない。カレーを頼んだのにシチューを出す定食屋があったら、二度と行かないだろう。それと同じだ。どんな絶品シチューを作っても、カレーでない限り評価は0点である。
「地頭がよくて」「プライドが高い」人ほど、対話の重要性を理解していないことが多い。頭の回転が速いために、早合点が多いのだろう。どんなに地頭がよくたって、新人の頃は経験値が圧倒的に足りない。上司が丁寧に教えてくれた業務でも、自分の知らない前提条件が山のようにあると思ったほうがよい。
「対話不足」を克服すれば
営業スキルも上がる
この「対話不足」という罠は、上司と部下の関係にとどまらない。営業と顧客の関係でも見られる。私が大手IT企業でシステム営業をしていた頃、売れる営業マンとそうでない人を徹底比較したことがある。いろんな違いがあったが、一番大きかったのは「対話が足りているかどうか」だった。
その違いは提案書に顕著に現れる。売れる営業は対話をしっかりしているため、顧客が困っていることをよく理解している。だからこそ提案書には顧客が必要としていることをピンポイントで提案してくる。逆に売れない営業は、顧客が欲しがっている商品をイメージできていないため、商品の機能をすべて羅列したような分厚い提案書を用意するのだ。
対話不足のまま仕事を進めるクセがついてしまうと、いずれメンタルがやられることになる。どんなに一生懸命働いてもまったく評価されず、次第に「上司が悪い」「会社が悪い」と人のせいにして、腐ってしまう。カレーを頼んだらちゃんとカレーを作れるように、対話をしっかりできるようになるだけで、その人の市場価値は跳ね上がるだろう。
(次回は7月8日公開予定です)