自分としては何度も言っているはずのことが、どうして相手に伝わらないのか――。こうした苛立ちを経験したことは誰にでもあるはずです。ただ、本当に相手はあなたから「何度も言われた」と認識しているのでしょうか?
こうした状況に陥ったときには、両者の間でコミュニケーションギャップが起きた原因を見つけ、対策を考えるべきでしょう。そこで今回は、「何回も言わされたつもり」になって、後輩に迷惑をかけてしまった先輩社員のケースを反面教師に、コミュニケーションギャップを起こさないための対策を考えてみましょう。
温厚なリーダー社員を
大激怒させた後輩の“失態”
「何回、同じことを言わせたらわかるんだよ!」
我慢に我慢を重ねたつもりでしたが、耐え切れずに叱り飛ばしてしまいました。その言葉の主は、Sさん(35歳)。メーカーで代理店の営業支援をしている部署で、後輩社員数名を指導しているリーダー職です。普段は温和で、誰からも好かれる存在。これまで社内で悪い噂を聞いたことがありません。逆に、
「お人好しで、いつも損な役回りばかり社内で押し付けられている」
と周囲に心配されるくらいです。
そんなSさんが後輩社員を大声で叱りつけた光景には、社内の誰もが驚きました。同僚たちはもちろん、上司も気にしています。ただ、この会社はチームより個人の成長を重視する社風で、よく言えば、放任主義。悪く言えば、我関せずといった職場です。なので、Sさんに、「大声で叱るとは、何が起きたんだ?みんな心配しているぞ」と声をかけて仲介に入るような同僚は1人もいません。
時刻は17時半。すでに定時を過ぎていました。さらに、Sさんは大声で叱ることに慣れていないため、上げた拳を下ろす方法がわからないようで、
「こうした失態は1回じゃない。先週もあったよな」
と、過去を蒸し返すような発言で再び怒りをぶつけ続けました。そこでついに後輩が、「自分がすべて悪かったです。すみません」と謝ることで、ようやく事は収まりました。ただ、後輩は本当に自分が悪いと思っているかというと、決してそうではありません。彼は自分が早く帰るために、理不尽だなと感じていても「面倒くさいから謝ってしまおう」と合理的に考えて謝っただけでした(後輩が悪いと思えなかった理由は後段でご説明します)。