職人技で付加価値は出なくなる。
町工場はITベンチャーと補完関係になれる?!
朝倉 職人技で思い出すのは、ドラマ版『ハゲタカ』で故菅原文太さんが演じていた、大空電機会長の話です。「一人前にレンズを磨けるようになるまで何年かかるか知ってるか? 30年だぞ!」という台詞を聞いて、僕自身は絶対に待てないと思いましたね(笑)。
真山 あれはドラマのオリジナルですね。
朝倉 個人に紐付いた熟練さが不可欠となると、会社としてスケールするのは難しい。今の時代のトレンドは完全に逆です。たとえばロケットや宇宙船を開発している米国スペースX社は「NASAは特注ネジの精度が云々と言っているけど、普及品が使えたほうが合理的だ」という考え方です。こうなると、職人技で付加価値を出すのは難しくなってきますよね。
真山 確かにこれからは職人技に固執すると、ものづくりを基本から見誤りますね。いまや相当部分を機械化でカバーできてしまいますから。町工場のような中小企業が生き残るには、ものを作る工場は最低限必要だとしても、ほかの強みが必要になりますね。
たとえば、いわゆるITベンチャーともっと補完関係ができればいいのではないかと思います。ITベンチャーは企業規模でいえば“中小”だけど、町工場とはまったく異質です。うまく接点をもてば、双方の長所・短所を補い合えるんじゃないでしょうか。ITベンチャーはバーチャルな世界でアイデアやモノを構築していく一方、町工場は地道にリアルな世界でものを作り出している。その両者が分断された状況を脱し、クリス・アンダーソン著『メイカーズ』で指摘されたように、デジタル技術とネットワークの進化によって誰もがアイデアを安く素早く製品化できる、といった動きが現に起こっています。
朝倉 そうですね。3Dプリンタが普及した今では、自分が欲しいと思ったものを誰でも簡単に作り出せます。そもそもCADで設計したものを試作するために開発されたのが3Dプリンタですから。
真山 おそらく、IT側の人たちは『メイカーズ』のブーム化を知っていても、町工場の人たちは気づいていないのではないでしょうか。国が中小メーカーやものづくりを支援するときも、優先するのは職人の雇用を守り、細かい作業を続けていける環境づくり、という発想です。結局は補助金を出すだけのこういった支援は弱い工場の延命策でしかなく、抜本的な変革につながらないばかりか、頑張っている精鋭ぞろいの工場まで窮地に追い込みかねません。結果として、“ものづくりに強い日本”というのは近いうちに幻想になってしまうでしょう。
朝倉 ものづくりといったとき、開発の発想が日米でまったく異なってきています。アメリカはソフトウェアだけでなくハードウェアも含めて“ソフト”的に常に最善化を図っていくようになってきています。
たとえば電気自動車メーカーであるテスラモーターズの工場などでは、ラインを固定化せず、磁気テープで地面に貼り付けているだけなんです。製品や技術の変化に応じて柔軟にラインを変更できるようにしています。そもそも製品も、日本のようにモデルチェンジのタイミングに限定せず少しずつ改善していて、同じ車種なのに買った時期によって改善されていることすらある(笑)。異業種出身者がメンバーに多いからこそ実現できるのでしょうが、製販両面を流動化させる発想は日本も学ぶべき点があると思います。<後編につづく>