『ハゲタカ』シリーズを筆頭に金融や農業、震災後の原発政策といったテーマに焦点を当て、次々と話題作を発表し続けてきた小説家の真山仁さん。作家生活10周年記念刊行の第1弾として刊行された『売国』(文藝春秋社)では、地検特捜部と宇宙開発の最前線が舞台となっている。その出版を記念し、東京都豊島区のジュンク堂池袋店でトークショーが開催された。
連載小説の単行本化に当たって、
200ページ圧縮の加筆・修正を敢行
司会 本日の司会を務めます文藝春秋社の吉安と申します。10月30日、弊社より真山さんの新作「売国」が刊行されました。これまで真山さんはいろいろなテーマを追いかけてきましたが、なぜ今回は宇宙を選ばれたのでしょうか?
真山 私の場合、執筆までの準備におおよそ1年から1年半程度を費やすようにしています。この作品の準備に着手したのは2012年のことで、ちょうど厚生労働省の村木厚子さんの逮捕に関して、大阪地検特捜部主任検事による証拠改ざんが発覚した頃でした。もうひとつ、民主党の小沢一郎さん(現生活の党)の強制起訴も話題を集めていましたね。かねてから、いずれは地検特捜部を題材に書いてみたかったので、ちょうどいいタイミングだと思いました。
世間は悪者扱いしているが、そもそも地検特捜部のことをちゃんと知ったうえで批判しているのか? 単に、権力やエリートを叩く象徴にすぎなくなっているのではないか? だとすれば、残念な話ではないか? こうした疑問が私の中に浮かんでいたわけです。だから、これを機にきちんと調べてみようと思ったのが出発点でした。
社会には、けっして揺らいではいけないものが必ず存在します。一般の捜査が及びにくいからこそ蔓延する「巨悪」にメスを入れて処罰するというチケ特捜部が本来担ってきたはずの使命も、それに該当するのではないか。それを確認するために、徹底的に取材してみようと思いました。
小説のストーリーを練っていくうえでは、どのような登場人物を検察に逮捕させるかが大きな焦点でした。実名は使えないから肩書きで「大物」だと表わす必要があるのですが、すでに現実で総理が逮捕されたことがあるので、それを越えるのが難しい。米国大統領を捕まえるなんてアイデアも飛び出しました。そうやって逮捕される人物を絞り込んでいくうちに、「巨悪」を一個人ではなくシステム的なものにしようという発想になっていきました。そこで、浮かび上がってきたテーマが宇宙開発だったんです。
この作品はスパイ小説仕立てになっていますが、何に関する情報を盗み出すのかについても突き詰めていったのです。当然ながら、それは日本が圧倒的に優位に立っている分野となります。すでに日本は自動車で世界を圧倒していますが、もっと意外な分野でも抜きん出ているとしたら、大きなインパクトがあるはずです。そこで、先進国が日本から盗みたがっている技術について調べていった結果、宇宙という分野にたどり着きました。