朝倉 複数の作品をまたぐ形で伏線が引かれているのはすごい!
真山 「ハゲタカ」シリーズは暗いテーマを取り上げるので、小説としてどこまで遊べるかを追求してきたんです。もともと1作目は“現代の歌舞伎”のようなものを作りたいと思って書きました。暗い話を痛快に描き「世の中は悪い奴らばかりで、最も悪い奴が強い」というメッセージを伝えたかった。
朝倉 ピカレスク(悪漢小説)ですね。同級生のなかには「鷲津になりたい」と外資系投資銀行に就職したヤツもいましたよ(笑)。
スケールが増していく「ハゲタカ」シリーズ
最新の舞台は町工場がひしめく東大阪
真山 新刊の『ハゲタカ外伝 スパイラル』はどうでしたか? これまでの「ハゲタカ」シリーズ4作では、どんどん企業買収のスケールが大きくなってきましたが、足下の小さな企業の問題にも焦点を当てたいと思って書きました。
朝倉 その狙いはもちろん、舞台設定が東京の大田区でなく東大阪というのもいいですよね。特有のコテコテ感が、良い意味の泥臭さを感じさせるし。
真山 朝倉さんも関西(兵庫県)出身だから分かってくれると思いますが、この東大阪の雰囲気をどこまで出すか、さじ加減が案外難しかった。たとえば「芝野さん」を「芝野はん」と文字にするとコテコテになりすぎて関西以外の読者が違和感を感じないだろうか等、ちょうどいいバランスを図るのに腐心しました。おかげで、いい具合に大阪の雰囲気が出せたと自負しています。
朝倉 まず驚いたのは、数々の大手企業の再生に携わってきた芝野健夫(三葉銀行資産流動対策室長、スーパー恵比寿屋本舗専務→社長、鈴紡や曙電機の最高事業再構築責任者を歴任)が地方の中小メーカー専務になるという地味な転身ぶりです。
真山 大手企業をターンアラウンドさせた芝野が、発明家かつ営業マンである社長を失った中小企業で果たして何ができるのか、というのは、確かにストーリーを練るうえでもっとも苦労したテーマのひとつです。
今回、舞台となっている東大阪の中小メーカー、マジテックは「ハゲタカ」シリーズ第3作『レッドゾーン』、第4作『グリード』の連載に登場させたのですが、その狙いは、ストーリーの主舞台が中国の国家ファンドやアメリカの巨大メーカーとどんどん大きくなっていくなか町工場を描くことで、買収や再生における大小のコントラストをつけることでした。ただし、私自身がものづくりに詳しいわけではないし取材も相当数したのですが、結局、町工場再生の切り札が見つけられなかった。そこで、『グリード』を単行本化する際にマジテックの関連箇所はすべて削除したままになっていたんです。
朝倉 ついに探し続けた答えが出て、今回の新刊にまとまったということですね。糸口はどのように見つかったのですか。
真山 あれこれ悩んだ末に、物語の設定である2007〜2008年と現在の2015年という時間差に着目することにしたんです。現在普及しているけれど、当時あまり見かけなかったものはないか、と探したところ、ある発想に行き着いた。これらは町工場で働く職人たちの技術を代替して駆逐するわけではなく、補完関係になるのではないか、と考えたのです。
朝倉 でも、現実にはなかなかそういう話に発展しづらいですよね。現実の中小企業は、とかく発明家タイプより職人タイプに傾斜しがちな印象もありますし。
真山 確かに金型工はたくさんいても、新しい図面を引ける人が少ない、といった問題はよく聞かれますね。それに町工場は、お隣さんと情報を共有しません。結束力を高めるために工業“団地”にはなっているけど、たとえ同じクライアントの下請けをやっていても、情報が寸断されてしまっているのが常です。そういう状況を打破して、町工場を再生するヒントを提案したいと考えました。