被災地という極限状態で葛藤する記者の目から“人は過ちを償えるのか”を問う小説『雨に泣いてる』(幻冬舎)。発売を記念して2月16日にブックファースト新宿店で行われた真山仁さんのトークショーでは、ミステリー仕立ての本作のネタバレを避けつつ、どうやって小説が作り上げられるのか、作品づくりの裏側について縦横無尽に語り尽くされました。
実は今日は、本邦初公開のテーマでお話してみようと考えています。題して、「真山仁はどのように小説をつくっているのか?」
通常、こうした新刊発売のタイミングで開催させて頂くイベントでは、作品の内容や取材の裏話などをお話しすることが多いんです。でも、ミステリー仕立てになっている今回の作品では、内容に直結する話をすると、お読みになっていない方にとってはネタバレになってしまうかもしれません。ですから、デビュー10周年記念でもありますし、よく質疑で尋ねられるこのテーマを、初めてじっくり話していきます。
『雨に泣いてる』に通底するテーマは
試行錯誤の中で徐々に固まっていった
執筆を始めるまでの準備期間は通常、1年半ぐらいです。
連載にしろ書き下ろしにしろ、新作を書くにあたって一番最初のポイントは、小説を書くための端緒をいかに見つけ出すのか、ということです。
私の場合には、大きくふたつあります。
ひとつは、出版社が持つイメージです。新作を依頼いただいた出版社の“色(特色)”を考えながら、どんな作品が合っているかな、と考えていきます。ジャーナリスティックな出版社であれば、取材力を借りてこそ生まれる作品はどうだろう、とか、今回の『雨に泣いてる』の幻冬舎さんのように非常に熱い出版社−−というのは単に私の勝手なイメージですが(笑)−−であれば、今まで出してきた作品群とタイプの違う作品で、熱い登場人物がぐいぐい物語を切り拓いていく小説が合うかもしれないな、といったことです。
もうひとつは、日ごろ、新聞を眺めながら見出しを拾い読みして、つい見落としがちなトピックや、これから何か起こりそうだというネタを常に探しています。あるいは、電車に乗っているときに週刊誌の中吊り広告を見て、見出しからイメージを広げたり、ネット上のニュースで見慣れない言葉を見つけたら調べてみて、まだ広くは知られていないけど面白そうなトピックだと思ったら、ストックしておくんです。
そのようにいろいろなところで網を張っている中で、あるキーワードを頻繁に見かけるようになると、「きた!」と思って、そのテーマに関する情報を集め始めます。関心と貯まった情報から想像力を膨らませて、さきほど挙げた出版社のイメージを加味しつつ、自分から提案する小説のテーマを考えます。もちろん出版社からもご提案を頂きますが、最近はこちらの提案を押し切ってしまうことが多くなりました。
『雨に泣いてる』の場合は、先ほど申し上げた“熱い”出版社のイメージに加えて、“過ち”と真っ向から向き合うようなテーマでやってみたいなと考えました。そこまで決まると、動機や社会的背景をベースにしたクライム・ノベル(犯罪小説)で、「罪は償えるのか」を問う作品像が漠然と浮かんできます。でも、これだけではまだまだ書き始められません。どういう“世界(=舞台設定)”の中で、どんな主人公で具体的にはどんな物語にするかを決めなければならないからです。