日本経済新聞社が、国内メディアとしては異例の海外メディア買収という大きな賭けに打って出た。世界的な影響力を誇る有力経済紙FT巨額買収の先に、何を見据えているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、岡田 悟、後藤直義)
「FTグループをめぐる争奪戦において、日経は最後の数分間で、8億4400万ポンドの取引で勝利した」──。
英国の有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(FT)は7月24日付の1面トップ記事で、自身が日本経済新聞社に買収されたことをこう伝えた。
買収元である日経は23日、FTを発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収することで、同社の親会社である英ピアソンと合意したと発表。日本円にして約1600億円に上る巨額の買収額もさることながら、欧米勢ではなく日本のメディアグループによるFTの買収劇は、国内外に意外感と大きな衝撃を与えた。
また、その買収劇も紆余曲折を極めた。というのも、24日付のFTの記事によれば、教育系出版事業を手掛けるピアソンは昨年から、独メディア大手アクセル・シュプリンガーとFTへの出資交渉を進めていたからだ。しかも、FTは日本時間の23日深夜、「アクセル社が有利」と速報を流した。
だが、結果は周知の通り。その日経が名乗りを上げたのは、わずか5週間前のことだった。決め手となったのは、日経が全て現金で約1600億円を支払うという好条件。わずか数分間で“大逆転劇”が起こったという。
もっとも、約1600億円という買収額が「高過ぎる」という声は数多く上がっている。なぜなら、FTの昨年の売上高は約641億円、営業利益は約46億円にすぎない。すなわち買収額は営業利益の実に35倍となり、回収までに35年もかかる計算だ。例えば米アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏による米「ワシントン・ポスト」紙の買収額が246億円、利益(EBITDA)の17倍だったことを鑑みても、確かに高額に映る。
しかも、英ロンドン・テムズ川沿いの一等地にあるFT本社ビルは買収の対象外。ロンドンは不動産市場が高騰しており「年間賃料は35億~40億円」(ロンドン在住の関係者)との見方もあり、日経は毎年、この賃料を負担する羽目に陥るかもしれない。