この1~2週間の間に、ウェブの世界には大きな出来事が2つ起こった。

 第1は、「グーグルマップ」「の「ストリートビュー」の日本版が8月5日に公開されたことだ。この日、たまたま地図を参照する必要があってグーグルマップを開いたところ、新しい機能を見つけた。私のもとには、「驚いた」という感想を記したメールが何通も届いた。それから数日間、打ち合わせの席上では、まずこのことが話題に上った。「寄ると触るとストリートビュー」というのが、私の周りの1週間である(「はまりこんで時間を取られたでしょう」と言った人もいたが、幸か不幸か、この1週間、2つの本の最終校正で一刻の余裕もなかったので、あまりゆっくり見ている暇はなかった)。

 誰もが考えたのは、「プライバシーは大丈夫か?」ということだ。この問題は、今後間違いなく議論されることになるだろう。ただし、簡単には決着がつくまい。通行人や車が撮影されてしまうのはもちろん問題だが、「家の外観がプライバシーなのかどうか?」ということになると、大いに議論の余地がある。「ストリートビュー」は、プライバシーに関して、新しい問題を提起したと考えるべきだろう。現に、アメリカやイギリスでは、大きな問題として議論されている。

 私が意外に思ったのは、日本のマスメディアがこれに関してあまり大きな報道をしなかったことだ。「Google ニュース」で「ストリートビュー」の新聞記事を検索してみると、8月12日現在、一般日刊紙でヒットするのは、毎日新聞8月4日と読売新聞8月8日の2つの記事だけであり、各社のサイトを検索すると、朝日新聞8月6日と日本経済新聞8月5日の記事があるくらいだ。日本でサービスが始まったことを伝える短い記事が多い。

 これに対して、ニューヨーク・タイムズ(NYT)をgoogleと"street view"という2つのキーワードでand検索をすると、8月12日現在で416件の記事がヒットする(google、street、viewの3語のand検索をすると、streetとviewが別に表れる記事も拾うので、"street view"を検索語とする必要がある)。アメリカでのサービス開始は2007年5月末だから、単純に計算すれば1日あたりほぼ1件ということになる。そして、各記事はかなり長い(主としてプライバシーの問題を論じている)。

 NYTだけでこれだけの記事があるのだから、日本での報道は、「きわめて少ない」と考えざるをえない。「個人情報」については、あれほどかしましく議論が行なわれたにもかかわらず、日本のマスメディアはなぜ「ストリートビュー」に大きな関心を示さないのだろう? 私の周囲の熱狂振りと比較すると、これは「不思議」と言わざるをえない現象である。