人民元の切り下げで米国株は下落、ドル安円高に

 前回(第16回)の「中国経済再生の秘策 人民元の基軸通貨化はいつか?」でも書いたように、今年10月のIMF総会では、AIIB関連で欧州勢を味方につけた中国が票を集め、人民元がIMFの通貨SDRの構成通貨として採用が承認されるはずでした。しかし、米国がその妥当性の検証にはさらに時間がかかると主張し、採決が延期されました。これは、米国サイドの時間稼ぎと考えられます。

 人民元は中国の通貨当局にコントロールされている通貨です。歴史的に見ても、景気対策に通貨政策(為替レート)を使うというより、政治的な目的のために通貨政策を使うのが中国という国です。米国は常に中国に対して人民元の切り上げを要求し、結果として、米中戦略経済対話など米中の大きな会談や会議の前には人民元高になることが過去にも多くありました。

 今回の中国政府による人民元の大幅な切り下げは、人民元の通貨SDR採用に関する採決延期に抗議するという意味でしょう。しかも、3日間にわたって切り下げることは、歴史的にもありません。9月には習近平国家主席が初の公式訪米をするということですから、人民元を基軸通貨にしたいという思いはよほど強いのでしょう。

 その人民元の切り下げ、および中国の景気減速により、金融市場のリスクが高まって不安定化し、米国の株式は下落し、短期的には低リスク通貨である日本円が買われることとなりました。

市場関係者に巻き起こるドル安円高論

 さて、こうした動きの中で、今後、ドル安円高を予想する市場関係者の声が出始めました。そう考える要因を考えてみましょう。

(1)米国利上げの先延ばし

 米国の金利の引き上げは今年の国際金融における最大のテーマであり、影響も大きいものがあります。現在、米国は昨年11月に量的金融緩和を終了し、すでに資金量は減少し始めています。