鳩山政権の誕生によって「JAL問題」や「ダム建設問題」が揉めることは、事前に予想されていた。だが、それとは別に、中小企業などを対象とした「返済猶予制度」が登場したことには、多くの方が驚いたことだろう。

 こうした政策は当然、金融機関の経営を圧迫する。「それなら公的資金を注入すればいい」、というのが亀井金融担当大臣の発想であったらしい。

 そういえば、いまから9年前の2000年、東京都や大阪府で、銀行に対する外形標準課税(いわゆる銀行税)の強化が行なわれて裁判沙汰にまでなった。それに比べれば今回の制度には公的資金の手当があることから、金融機関にも配慮しているぞ、という理屈なのだろう。

 ただし、その公的資金は、どこから湧いてくるのか。そこが問題である。

 国が持っている「打ち出の小槌」は、(1)増税、(2)国債増発、(3)政府紙幣発行の3本立て。政府紙幣の発行は、先の麻生政権で物議を醸(かも)したが、結局、立ち消えとなった。鳩山政権は、4年間は増税をしないと公約しているのだから、打ち出の小槌の中味は国債増発しかない。

 藤井財務大臣は10月9日に、新規国債発行額を44兆1千億円以下に抑制すると発言していた。ところが、いまでは50兆円を軽く超えるという。国債にも返済猶予制度の恐れが出てくるほどの大乱発である。

 そこで今回のコラムは、国の借金、特に赤字国債について考えてみたい。これに経営分析のノウハウを適用して、その最適残高を模索してみようという、大胆な試みである。

 財務省の役人などが本コラムを見ている可能性はないであろうから、気楽に語ってみよう。

国の貸借対照表には
「内部留保」は存在しない

 国や地方公共団体の財政に、企業の経営分析を当てはめるにあたっては大きな制約がある。それは、国や地方公共団体に「出資」や「儲(もう)け」の構造がないことだ。役人が天下りによって私腹を肥やして「儲ける」のは、別問題である。

 そのため、国の貸借対照表には「純資産」や「内部留保」という概念が存在しない。

 国の財政を語る前に、純資産や内部留保がどういうものなのかを説明しておこう。今回は、化学業界大手の旭化成の決算データを拝借する。